モンプリュ (1) 『ヴァランシア』『プレジダン』『クレープシュゼット』『ワッフル』

神戸・元町、阪神元町駅から南へ7、8分のところにある「パティスリー モン プリュ」さん。
妍を競うような美しいケーキが多彩に並んでいて、どれにするかけっこう悩ましいお店ですね。
ちょうど訪ねた日は、神戸そごうのイベント(雑誌「SAVVY」企画の催し物“おやつとちょこっとごはん”)に出店中、ということを販売スタッフが教えてくれたので、せっかくだから急遽そちらにも帰り際、寄ってみました。
すると、通常お店では出していない『クレープシュゼット』『ワッフル』が。しかも、注文を聞いてからその場で焼いてその場で食べる、というライブ感のあるやり方。面白そうだったので、いただいて帰りました。


●『ヴァランシア』 径6.5cm 高さ5cmほど。
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ヴァレンシア・オレンジを満喫させようというケーキ。真っ白なメレンゲにオレンジが映えます。

心憎いのは、オレンジをバーナーで焼いているところ。焼かない選択の方が絵的にもきれいだとは思うのですが、そこはそれ、林シェフのスペシャリテということですから。
この渋さで、大人のケーキであることの主張がビンビンと伝わってきます。

オレンジの果汁(グランマニエもかな)が染み込んだ、薄いビスキュイのなかには、オレンジのババロアとオレンジが一切れ。全体をイタリアンメレンゲで薄く覆ってさらに上から粉糖をまぶしてマットな仕上がりに。
トップの飾りには、オレンジの切り身とピスタチオ。

普通、オレンジの酸味を活かした、爽やかな味わいを期待するところです。スキッと甘酸っぱくてキレのいい味わい。
ところが、なのですよ。酸味だけでなくどこか苦味もあります。
そしてオレンジの香りが幾重にも重ねられているような感じです。生のオレンジとババロアだけでなく、ビスキュイもオレンジ。とくにババロアはオレンジが濃縮されたような独得の風味(家人が子供時代に飲まされていたカルシウム剤と同じ匂いなのだとか、哀しい過去と結びついているようです。いい想い出ではなくてちょっと苦手の様子、はははっ、香りの記憶は想い出と強く繋がっていることが多いので仕方ありませんね)。

その重層性は大したもので、オレンジ自体の香りとグランマニエ、濃縮オレンジの香りがずっと感じつづけていられるようにほんの少しずつ位相をずらして刺激してくれているようです。
苦味はオレンジ自体にしては少し強いし、ピールだとすると刺激が感じられないし、ババロアに感じられる苦アーモンド?  うーん、ともかく苦味が加わったことではっきり大人の味わいになっています。

そういったオレンジの味の工夫もさることながら、このケーキの凄いところは、表面のメレンゲ、ではないでしょうか。表面のほんの何ミクロン? かが、カリッと焼けているのです。
食べようとすると、一瞬カサッとしたと思ったら、もうクシュッと溶けてしまっているのです、そう、気が付く瞬間にはオレンジの鮮烈な味わいがとびだしてくるのですから。

もうお見事というしかない腕の冴えです。




●『プレジダン』 5×5cm 高さ8cm(max)
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ヘーゼルナッツのプラリネクリームに、アーモンドプードルを使ったシュクセとビスキュイ・ジョコンドを合わせたもの。
トップはカラメリゼしたアーモンドスライスが、ツンツンとたくさん突き刺さっています。

ビスキュイ・ジョコンドが3層、底の1枚は上面たけ、残り2枚は両面にプラリネクリームが薄く塗られています。
そして間に2層入り込んでいるのが、シュクセ。

とても香りの高いケーキです。プラリネのヘーゼルの強烈さは当然として、ジョコンドとシュクセの両方に含まれているアーモンドプードルから発せられる杏仁香の高さ。ほとんど拮抗しています。

ジョコンドのややドシッと腰の座った食感に、シュクセのザクサクッ感とふんわり感。クリームのヌルッと感。飾りのアーモンドのカリッザクザクとした強い食感。
この重層的な食感の妙。

すべてがいきいきとしていて、すべての持ち味に一つひとつ応接するのに目が回るほど忙しいケーキです。
“林シェフ、若いですねぇ”と思わず声を掛けたくなるほど元気なケーキ。フゥッ。





●『クレープシュゼット』 皿の大きさ9×9cmほど。
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普段クレープはほとんど食べません。モチッとした食感といえば聞こえはいいのですが、あの団子っぽい食感があまり好みではないのです。
それでも、林シェフのものはそうそう食べられないだろうと、購入を決意。

クレープシュゼットといえば、オレンジシロップで煮込むのが定番。くるりくるりと剥いたオレンジの皮にリキュールを注ぎ火を付ける、華やかなパフォーマンスとともに有名。

でも、シェフは“焼くだけのシュゼットもあるんですよ”と、クレープパンで生地を焼いて、コアントローとアルマニャックをたっぷり含んだオレンジクリームを塗って、一丁上がり。
最後に、すりおろしたオレンジの皮と砂糖がふりかけてあるようです。

これが素朴きわまりないお菓子なのに、いやいや、だからこそと言うべきでしょう、美味しいのです。
生地がなんとも絶妙なのですね。モチッとした食感はあるのに団子っぽくはならず、オレンジクリームを吸って瞬時に溶けていくという感じ。
初めての食感、初めて手放しで好きになったクレープ! 美味!!

どうやら実演を見ていると、生地はかなり水っぽく、火は驚くほどの強火。ミルクレープなどを作る時によく見る、温めたパンを火から離して冷ましながらの余熱で焼くというスタイルの正反対。
バターを多めに溶いて、焦げることを恐れず生地の水気を瞬時に飛ばしていく、飛燕の早業。お見事です。





●『ワッフル』 皿の大きさ9×9cmほど。
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小さな2連のワッフル焼き器で手早く焼いてくれます。

こちらも普通のイメージとは一線を画しています。普段、カリッもちっとしたタイプと、オムレットの皮のような(もみじ饅頭のような)ふんわりタイプに慣れていませんか。

そのどちらでもないのです。
表面のみカリッとした食感があって、中はクシュクシュと崩れてしまうような脆くはかない食感。

これまた、オリジナルでユニーク! 
繊細で軽やかなワッフル。よくぞ素晴らしい味わいを発見したものです。

ハチミツとヴェルジョワーズ(ビートから作られる砂糖で精製したものの残り液から作られる、らしい)というコクのある甘さとの相性もぴったり。美味しくって、頬が自然と緩んでしまいますねぇ。
生地をどう作るか、というパティシエ本来の仕事をきっちりと詰めてきてくれる立派な仕事ぶりです。唸ってしまいました。



そごう百貨店のイベントを訪れると、たまたま新型インフルエンザで行政の過敏な対応が発表された日だったため、会場は閑散。おかげで林シェフと親しくお話する時間がありました。
“クレープ・シュゼットもワッフルもシンプルですけど味わい深いと思いますよ”と自信に満ちたニッコリ顔。
コアントローにアルマニャックの加わった香りの奥行き、ハチミツにヴェルジョワーズの加わった幅、食べる前から予測の付いた味わい以上に……
ここで注目すべきは、生地です、生地! 生地の探究に味わい深さが秘められていたのでした。

そして大人気のモンプリュを抱え、イベントに取材にひっぱりだこのシェフですが、“まだまだ持っている力の5、6割しか出していません”と余裕の表情。ということは、10割だと一体どんなお店になるのでしょう。今後の展開から目が離せない、とはこのことか。
デパートの催事をもチャンスと捉え、自分の楽しみとする積極的な発想。林シェフの周りには刺激的でワクワクすることが目白押しのようです。



●『ヴァランシア』470円  『プレジダン』470円  『クレープシュゼット』420円  『ワッフル』315円(2個)

●「パティスリー モンプリュ」
 神戸市中央区海岸通3-1-17  TEL078-321-1048  定休日/火曜