ラトリエドゥマッサ(2)『サバラン』『バベル』『ショコラスペシャル』『スーリー』『ケークオフリュイ…

神戸市東灘区、阪急神戸腺岡本駅から西へ10分ほど、山手幹線沿いにある「ラトリエ ドゥ マッサ」(L'ATELIER DE MASSA)さん。
今年に入って、続々有望な新人が登場していますが、なかでも輝かしい修業歴を誇るのが、こちらの上田真嗣シェフ、マッサさん。
しかしながら、フランス帰りだからとの気負いはありません。なんだか自然体。
お店の向いが小学校ということもあり、子供連れのお客さまも多く、優しい味わい・食べやすいお菓子も揃っています。行く行くは、クラシックなお菓子、バタークリームやプラリネを使ったものも出して行きたいとのこと。少しずつ、一歩ずつといったところでしょうか。
だけど、やはり“フランス人にしか習っていないので、そういった自分にしかできないお菓子を作っていきたい”とも。これからも目が離せない存在になりそうです。
なんだかお伝えしたいことがいっぱいで長くなりました、よろしくお付き合いのほどを。


●『サバラン』 カップ内径8cm 高さ9.3cmほど。
画像
カップに入れて、シロップがこぼれても平気な準備をして、ラムシロップをこれでもかというほどたーっぷり染み込ませています。

ブリオッシュ生地がとても力強く、縦横無尽に強力な網目構造を作り上げ、シロップをずしりと背負い込む力を与えています。
そのまま食べても美味しいブリオッシュ。

ラム酒風味の紅茶シロップということなのですが、圧倒的にネグリタラムの香りが強く、香りの強さからすれば、もっとアルコールの熱感があるはずなのに、というほど香りの強いタイプのもの。
あるいは一度フランベしてアルコールを飛ばしているかもしれません。

紅茶(ダージリン)やシナモンはラムの陰に隠れてしまっていますが、おそらく、なければ味わいが、ペラッと薄っぺらに感じられるのでしょう。
甘いシロップにほんのり甘いクレーム・シャンティという組合わせが、甘さだけの世界に暴走してしまう危険が。

ベタ甘なわりに、落ち着いて食べられるのは、
紅茶の重石が付いていることと、生地が強くて食感を失わないこと。
この二つが、豊満なラムの香りと、シロップの甘さに耐える力を生み出しているのでしょう。

甘ーいラムの海に飛び込んで、その芳醇な香りに酔っぱらってしまおう。




●『バベル』 底径6.8cm 高さ6.3cmほど。
画像
キルシュ風味のムースとカラメル風味のムースの組合わせ。

ねっとりとしたムースを支えているのがサクサクと軽快なリズム感を与えるサブレ生地。
カラメルはほとんど焦がしていないレベルのものを少量使った、ごく淡い風味。
キルシュもさほど強くなく、カラメルが控えめなためにキルシュが目立つ役割を押し付けられている、といった印象。

どちらのムースもベースはアングレーズ的なもの。
その上品な甘さにかすかに風味の変化を付けて楽しませてくれている。
表面のビストレ処理は色粉、トップのフランボワーズがキュンとした酸味でアクセント。

バベルの塔?  天に抗って、上へ上へと伸びてついに自壊してしまうバビロンの伝説。
このネーミングと形に引っかかった御仁は多いのではないでしょうか。私もその一人。
シェフ曰く、形が面白かったからとのこと。
まんまとのせられてしまいましたぁ。たしかに、この形、他所で見掛けませんね。

思いきって塔のてっぺんから、ナイフで自ら崩してしまいましょう。いざ!
うぅん、ナイフで切り分けようとしても、切った端から再びくっ付いて離れようとしません。
ムースのねーっとりとした食感の繊細さ。
トロトロ、スッと消えてしまう軽さですが、最初に口に入れたねっとり感が余韻として響いてきます。秀逸です。




●『ショコラ・スペシャル』 2.7×7.5cm 高さ5cmほど。
画像
まぁ、なんて美しいグラッサージュでしょう。
飾りのホワイトチョコのハート型が映り込んでいます。
鏡の中の世界、魅惑的な景色。

アーモンドプードルを使ったチョコスポンジとガナッシュ(生チョコタイプ)とグラッサージュだけのケーキに見えますが、食べてみるとじつに深い味わい。ふうぅ。

スポンジにはクレームドフランボワーズをアンビベし、フランボワーズのジャムを薄く塗っています。どっしりとした重めの生地が、もうそれだけで満足感を与える力を持っています。
ガナッシュはわずかに酸味はあるものの苦味が全面に出たハードな印象のもの。
カカオ分99%のものをメインに使っているそうです。

酸味がアプリコットからフランボワーズに置き換えられていますが、所謂『ザッハトルテ』の変形ヴァージョンと私たちは捉えています。
ショーケースには『ザッハ』(生地はアーモンドではなくヘーゼルナッツを使っているとのこと)も並んでいるので、この手の味わいはシェフ自身かなり好きなのでしょうね。
生地もチョコレートも強いものですが、食べた最初の印象は甘いケーキ。ハードなのに食べやすいといったところ。

本家のザッハが全体を覆うグラズールが重い印象を与えます。
が、こちらはグラッサージュの滑らかさ、ガナッシュが加わっていることで、はるかに口溶けが良く、同様に重厚な味わいなのに、比較すると軽い印象をもたらしてくれるのではないでしょうか。

“重くて軽い、甘くて苦い”……相反する言葉なのに不思議と違和感がない。
バランス感覚が突出したケーキです。お見事!




●『スーリー』 体長9cm 体幅6cm 体高4.3cm 体重100gほど。
画像
今はなき名店「ルコント」を象徴する作品。

ルコントさんが子供たちに喜んで貰いたくて作ったもの。
「ルコントさんのおかしなお菓子の話」という40周年記念の時の絵本を見せてもらったのですが、その中にももちろん『スウリー』のことが書いてありました。
スウリーを見た子供たちが喜ぶ顔を見て、ニコニコ嬉しそうなルコントさんのイラスト。素敵な本です。

さて。上田シェフの菓子職人としての足固めをしたのが「ルコント」さん。
5年半修業して、その後フランスに渡っても何も困ることはなかったというほど、徹底して基礎を叩き込まれたようです。その感謝を込め、さらに「ルコント」出身者の誇りも込めて作っているのでしょう。

エクレアと違って、シュー生地を“涙型”に絞らないといけないので少し固め。
たっーぷりのカスタードを詰めて、艶々のフォンダン、美しいなぁ。もちろん、ひび割れもなし。
チョコレートで目鼻と尻尾を描き、アーモンドのお耳。
ラブリー派のシェフとしては、こだわりたいお菓子に違いありません。

あれっ、本家よりすこし太っちょのネズミちゃんですね。
頭からかお尻からか迷いながら、パクッ! 
ぅうんまいっ!!  目元が頬がにこにこっと緩んでいきますねぇ。
お子ちゃまだけでなく、大人も大満足。うわぁ~幸せ!

カスタードは卵風味とヴァニラの風味が絶妙にブレンドされて得も言えぬ香り。
クリーム自体は少し甘さ控えめなのですが、表面のフォンダンと混ざり合った時の素晴らしさといったら! もう言葉にならないほど。
生地もザクッと歯切れ良く、サラリと消えてくれます。逸品という言葉が相応しい、永遠のお菓子。じつにお見事です。

ちょいと太っちょなのは「ルコント」さんよりもカスタードを多めにしてくれているからなのだそうで。しかも、お値段を関西相場に抑えたとのことで、とてもお買得。
これからは何匹もお家に連れて帰ることにしまーす。ずっとずっと作り続けてくださいよぉ。





●『ケーク オ フリュイ』 7.5×6cm 厚み1.8cmほど。
画像
「ルコント」さんのケーク。
フルーツだらけのこの姿、有名ですね。

ほんの少しアレンジしていて、フルーツは本家(10種類)よりもやや少なめ。
ラム酒はネグリタラムを使用。
ドライフルーツはプルーン、アプリコット、レーズン、ドレーンチェリーの赤と緑、レモンピールなどが入っているのかな。

たーっぷりのネグリタラムで、豊満な香りに包まれます。ほとんど酔っ払いそうなくらい。
食べ終って、ジワッと身体が熱くなっているように感じるほどです。
それにプルーンやアプリコットの酸味も遠慮なく利いていて、鋭く濃厚な味わい。
生地はサラリと口溶けも良く、力強く濃厚な味わいが一気に口いっぱいに広がります。

優しい味わいの素朴なフルーツケーキが好みではありますが、具沢山、ラムたっぷり感、濃厚なベクトルにおける完成した世界です。




以下二つは、プレオープンの時にお土産にいただいたもの。前回、『ケークデシトロン』のみの紹介で終わっていましたが、今回やっとご紹介いたします。
●『スコーン(プレーン&カランツ)』 共に径5.8~6.5cm 高さmax3.5cmほど。
画像
粉の香りが伝わってくる素朴なイギリス版おやき、とでも云えるでしょうか。

イギリス人がよく言う“狼の口”は開いていません。だからといって生地が詰まって重いという訳ではないのです。塩気は強く、ベーキングパウダーの匂いもする。

しかーし、それが欠点にはこれまたならないのですね。
クロッテッドクリームとジャムを山ほど塗って食べるのが定法なので、そのための味わいになっているからです。間違っても私たちのように、試しにとばかり、生のまま食べては行けません。

じっさい、決まりに従って軽く温め、とりあえずクレームシャンティと苺ジャムで食べると、塩気や風味がコクとなり、奥行きとなるのでした。
しっとり感もあるので、口に入れた最初からクリームなどとの一体感が強くなります。



●『ショコラ・ショー』 
画像
160ccの牛乳を80度に温めて、スティックをクルクルンッとしていると……
ほーら、いとも簡単にショコラ・ショーの出来上がり。
お手軽でいいですねぇ。

そういえば、今年のバレンタインデーでよく見掛けましたね。
多くのお店が、このスティツクタイプのものを手掛けていました。

こちらのものは、本当にマイルドで優しい味わい。
ホッと一息に最適です。





シャイな様子、小さな声、“ラブリー好き”という性格からは想像するのは難しいですが、自分の感覚や考え方を臆することなくズバズバ発言するタイプではないでしょうか。ほんのちょいと毒舌なところ、好きです、あははっ~。憎めない雰囲気なのです。
名店の部門長を務めたり、提携作品の神戸・パリ同時発売を勝ち取るなど、フランスのシェフから愛されているのも頷けますね。
にもかかわらず、マニアに喜ばれるより、普通のお客さんに喜んで貰いたいとのこと。高い商品よりも、日常的なおやつとして愛される道を選ぶ、とも。お客さんとの間合いを測りつづける必要のある茨の道をあえて選んでいます。
フランス、フランスとこだわって縛り付けると、世界が狭くなってくるのかもしれません。
つねに、フランス人のお店で修業してきた揺るぎない自信からか、凝りかたまるのではなく柔軟な精神を持ち合わせているシェフだと云えるでしょう。



●『サバラン』420円  『バベル』480円  『ショコラ スペシャル』480円  『スーリー』250円  『ケーク オ フリュイ』350円  『スコーン』『ショコラショー』

●「ラトリエ ドゥ マッサ」(L'ATELIER DE MASSA)
 神戸市東灘区岡本4-4-7  TEL078-413-5567  定休日/火曜

※ブログ「パイ日和」(http://pie.at.webry.info/201104/article_8.html)にも、このお店のタルトを紹介しています。よかったら、どうぞ。