グラン・ヴァニーユ (2) 『エテルニテ』『フィネス』『キャロル』

京都、間之町押小路上ルにある「グラン・ヴァニーユ」さん。2月のオープン早々、大のお気に入りのお店になってしまいました。
味はもちろん、サービスもオープンな心持ちと、向上心、客を楽しい気持ちで送りだしたいという、とても嬉しくなるサービスの基本姿勢。しかもマニュアルなしの飾らない人間の魅力に溢れているのですから。
ケーキは味半分、サービス半分と考えている私たちの日頃の思いを、そのまま体現したようなパティスリー。好きにならずにはいられません。


●『エテルニテ』 径5.5cm 高さ6cmほど。
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ビターチョコのムースとアールグレイ風味のミルクチョコムースの組合わせ。

商品名のエテルニテ eternite は、永遠という意味。
チョコレートやアールグレイの風味の永遠性に信頼を寄せてのネーミングとも、自作にたいする自信の表れともとれそうです。

この組合わせは、どの時代の誰が食べても美味しいはず、という絶対的な自信がネーミングから読み取れます。そういう意味では「グレゴリー・コレ」のアプソリューと双璧をなすでしょう。

アールグイの香りの品の良さ、それを包み込むチョコレートの円やかなこと。ミルクのコクが香りを隠してしまわないところが素晴らしい。意外と両立しませんからね。
それらをじっくりと支えるビターチョコのムース。
間のカカオ生地、ブランデーかなにかお酒の香りもゆっくりと広がっていきます。

苦味が不動の基盤のようにずしりとした重みを感じさせるのですが、ムースであるためにけして重苦しくならないのです。
そして、底に敷かれたフィヤンティーヌの肌理の細かさ、ヘーゼルナッツの風味。
それから、まわりのカバーチョコにはアーモンドダイス。
この二つが邪魔にならない範囲の繊細な食感の存在感と、土に根差した力強さのようなものまで感じられるのです。

エテルニテとは、しっかりした基盤があるからこそ言えるもの。フィヤンティーヌの存在はこのケーキの隠れた核ですね。
名前倒れにならない心憎いケーキです。




●『フィネス』 4.2×7.5cm 高さ4cmほど。
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赤ワインのムース。

フィネス finesse とは、精巧、繊細、鋭敏、真髄などの意味がある言葉。
ソムリエがワインを品評する際のテクニカルタームとしては、繊細さと卓越性を意味することになっているようです。

いちじくのムースとフランボワーズのジュレを赤ワインのムースで包み込んでいます。
トップは赤ワイン風味のナパージュとオレンジピールとレモンピールのジュリエンヌ(繊切り)。

商品名が示す通り、繊細さの極み。
イチジクのムースも当然種ごとなのですが、種はすり潰されていて、ほんの時折チャリと微かに存在を示す程度。風味もワインの風味にほとんど包み込まれているレベル。
本来、強い味わいであるはずのフランボワーズのジュレも量がギリキリ制限されていて、けして赤ワインのムースを蹴散らすことをしません。洗練されています。

3つのパーツがとても優しく協調していて、淡い濃度なのに奥深い味わいを作り出しています。
心がとろけていきそう。上質のワインを使っているのでしょうね。
見事というしか、ありませんね、ふぅ。

ソムリエなら“やや石灰質の多い粘度質土壌から生まれたもので、赤い果実の香りに恵まれたフィネス、繊細さこそが身上”などと語ったりするのかな。




●『キャロル』 径5.5cm 高さ4cmほど。
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まっ、可憐な姿。
思わず、頬が緩んでしまいます。

キャロルはルイス・キャロルでもなく、ロックグループのキャロルでもなく、クリスマス・キャロルのキャロルだそうです。

へぇ、何故? 
クリスマスキャンドルの可愛らしさを苺で表現しているとのこと。
ネーミングはキャンドルではなく、その背景に流れている賛美歌に焦点を当てているのですね。ネーミングとしては、かなり高等テクニック。

シロップでアンビベされたスポンジの上に苺のムース。中にはヴァニラクリームのムースと苺とフラボワーズのジュレがほんの少し射込まれています。

なぁんだ苺のムースか、などと侮ってはいけません。
私たちも普段はめったに苺のケーキは買わないのに、まぁ可愛いから良しとするか、という気持ちでいたのです。なんだか、エラソーな私たち。

しかし、なのです。食べてびーっくり! 
上質さというのは、味わいの基準を根底から覆してしまう力があるのですね。

酸味の強い苺を選んでいるのはもちろんなのですが、なんともコク、風味とも優れていて魅力たっぷり。フランボワーズの助けも借りてはいるのですが、苺だけでも十分説得力があったのではないかと思います。

それを上回るのが、ヴァニラクリーム。
卵の風味、ヴァニラのとろけるような香り。またたびを嗅いだ猫のようにしどけなく、グルクル~ッと声を出してしまいそうになるほど。おっと、ここでは品下る表現は厳禁。もとい、夢心地。ふうぅ~。

この二つの優れた要素に輪郭線を与えるようなジュレの働きも心憎いばかり。
こんなにシンプルで、ラブリーなケーキでこれほど驚かされた経験は初めてです。
チョコレートやナッツなど素材自体の存在感が重厚なもので驚かすのは、どちらかといえば容易。苺のようなか弱い存在から、これだけの感動を呼び覚ますとは!  じつに、お見事です。



津田シェフ、経歴からただ者でないことは最初から分かっていたのですが、ケーキを知るごとにどんどん、その才能の高さを見上げるような気分が高まってきます。いずれも焦点がピシリと定まっていて、繊細でいながら主張のはっりした鋭利さのある、澄明な味わいです。
これだけのタレントを前にしていて、謙虚な気持ちで居つづけられる奥様の恵理さんの精神力も素晴らしいですね。
このお店では、これから先もずっと驚きが仕掛けられつづけるのだろうなぁと期待に胸震わせています。もっと知りたい、もっと味わいたい。この気持ちはずっと続いていくのだろうなぁ。



●『エテルニテ』『フィネス』『キャロル』各550円

●「グラン・ヴァニーユ」
 京都市中京区間之町押小路上ル鍵屋町486  TEL075-241-7726  定休日/火曜・水曜