ロトス洋菓子店 (5) 『たまごのショートケーキ』『オペラ』

京都、烏丸松原の北にある因幡薬師の斜め前にある「ロトス洋菓子店」さん。
通うほどにロトス熱に罹ってしまうようです。強い味わいにも優しさがあるし、優しい味わいにも強さがある。このバランス感覚はどうやって身に付けたのでしょう。
木村良一シェフ、注目に値する才能の持ち主です。


●『たまごのショートケーキ』 3.5×8.5cm 高さ5.5cmほど。
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たまごの? はて面妖な。
ショートケーキといえば、苺。苺は入っていないの? と聞きたくなるところですが、
まぁ一度素直に食べてみて欲しいですね。

イチゴが入っていないからこその美味しさに、ちょっとした驚きを覚えるはず。
ジェノワーズと生クリーム、カスタードの組合わせですから、要するに“ロールケーキ”の味わいだと思っていいでしょう。

でも、違うのです。
ジェノワーズにたっぷり卵黄を使っていて、生地が脆く、ロールに捲けないと言います。

使っている卵は“京たまご”というブランドのもの。たしかに味が濃く風味が豊か。カスタードも同じ卵を使っているので、まさに“たまごの”と名付ける意味が納得されます。
苺ショートを作るより手間も原価も掛かるのに、あえて“たまご”を選んだのは、ごまかしの一切利かないところで勝負してみたかったのではないでしょうか。

なんてきれいな黄色なのでしょう。その生地のやわやわとした優しさ、同時に深い味わいの重厚さも。
卵の豊満な風味、生クリームの軽さ、泡の美味しさ。
トップのシャンティにもかすかに、波模様までほどこされていて、美しいですね。

ロールケーキと違って焼き目の部分を使わないことで、曇りのない、上品で清らかな世界を作り出しています。このお菓子では、焼き目すら、雑味に感じてしまうのです。
優しさのなかに凛とした姿勢を感じるのは、不要なものを厳しく切り捨てているからなのだと気が付きました。
う~ん、細部まで手を抜かない、見事な技術、洗練の味わい。


忘れていたことを憶い出したような懐しい感触すら、このお菓子にはあります。
そのせいでしょうか、自家製ジャムも添えられていますが、最後までこのシンプルなままで味わってしまいました。
この奇麗さ、優しさに夢見心地でずーっとひたっていたかったのです。ふうぅ。




●『オペラ』 3.2×9cm 厚み2.5cmほど。
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ついに、2.5cmの『オペラ』の登場です。 拍手!! 

なにかの本で読んだのですが、1950年頃の本家「ダロワイヨ」では2cmで作れ、ということだったと記憶しています。日本の心斎橋支店では 2.5cmでした。
他には「ケ・モンテベロ」の橋本シェフが、たしか 2.5cmだったはず(変わっていなければ)。
ほとんどのお店が3cm。または、それ以上。

あるシェフから“2cm、2.5cmでは現代人には物足りないから”という声も聞きましたが、この2.5cmは物足りなさなど、ちっとも! 感じさせませんでした。
しかも、秀麗な姿。甘い溜め息をついてしまいます。


画像ガナッシュにイタリア「ドモーリ社」のサンビラーノというチョコレートを使っています。
これは酸味が特徴。そこで、アンビベのシロップもコーヒークリームも、キリマンジャロを抽出したものを使うことに。
オペラで酸味とは意外です。チョコレートとコーヒーの異なる苦味を楽しむものと決め込んでいましたが、へぇ面白いアプローチ。

もちろんベースのほろ苦さはたっぷり味わえますが、キンと鋭い酸味が表面を走り抜ける感じがあり、そのあとを柔らかな酸味が追い掛けてきます。サンビラーノをキリマンジャロがフォローしているのでしょう。とても奇麗な味わいです。
最後にフッと、戻り香で楽しませてくれるのは、コニャック。
薄く削がれたジョコンドであるにもかかわらず、ザックリとした強さを感じさせてくれるのも嬉しい。
苦味、酸味、甘味、チョコレート、コーヒー、ジョコンドのアーモンド、コニャックの香り、生地の食感の強さ、アンビベされた脆さ。
すべての要素に一体感があります。まさに酸味一体。いや、極上のマリアージュ。

木村シェフは派手な飾りなどで技術をひけらかすことをしませんが、この2.5cmの厚みや、一番上の1mmもないほどに極薄に伸された パータグラッセの緊張感のある美しさを見れば、いかに冴えた正確な技を持っているかが分かろうというものです。

大口を開けずに、エレガントにダイナミックな味覚世界を堪能する、なんと見事な技なのでしょう。
他所では出会わない、個性的なオペラ。天晴れです。
オペラ好きの信頼できる友と食後の感想をあれやこれやと話したら……尽きないだろうなぁ、きっと。





定番のシンプルなお菓子なのに唸らされてしまいます。ちょっとした工夫を加えたり、より精度を高めたりするだけで、食べ慣れているはずのお菓子を面目一新。
人を驚かせるような新奇なことには見向きもせず、常識的な味わいの範囲の中で感動させる技を身に付けています。

“これからは生地の美味しさをベースに”という言葉も、心底嬉しかったぁ。長年、このブログで言いつづけてきたことですからね。これから長いお付き合いになりそうです。



●『たまごのショートケーキ』420円  『オペラ』450円 

●「ロトス洋菓子店」
 京都市下京区烏丸通松原上ル因幡堂町699  TEL075-353-2050  定休日/水曜

※ブログ「パイ日和」(http://pie.at.webry.info/201111/article_3.html)にも、このお店のパイ&タルトを紹介しています。よかったら、どうぞ。