ロトス洋菓子店 (6) 『シュークリーム』『サンビラーノ』

京都、烏丸松原上ルにある、当ブログではお馴染みの「ロトス洋菓子店」さん。
こちらは味ももちろん大のお気に入りなのですが、シェフの木村さんと接客の小川さん、お二人の醸し出すふんわりとした雰囲気で、客の心を優しく受け止めてくれるのです。いつも心に温かいものを抱いて帰路に着くことになります。
これはお菓子を食べる上で大切な要素。お菓子ってある意味、幸せを享受するための媒体のようなものですから、食べる前からすでに余熱されているようなものですね。
では、その準備万端で食べた2品をご紹介しましょう。


●『シュークリーム』 径8cm 高さ4.5cm 80gほど。
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ガリッと強く焼き込んだ生地。

シェフの好みはそれだけではなく、内側の白っぽいところが一番美味しいと感じるそうで、生地を分厚くし、白っぽいところが多くなるようにしてくれています。

おやっ? 不思議なことに、その白っぽいところ、切り口を見てみると黄緑色に見えるのですね。
修業先でもそうだったとのことですが、なぜそうなるかは解らないとか。“ピスタチオを入れているの? と聞かれますが、普通のシュー生地なんですけどね”とのこと。

では、かぶっといきましょう。
ワォ、美味しいっ! 

表面のアーモンドダイスがカリッ。芳ばしく、弾ける香りと食感。
このアーモンドで、より強さを強調して生地もザクッと豪快だし、生地自体の香りも強くていいですね。
なかは、生クリームをほんの少し加えたカスタードがぎっしり。
京たまごという美味しい卵を使っているので、とてもコクが豊か。しばし、このカスタードだけを舐めて癒されたい気分。まぁそれほど、ぽってり豊潤です。強い生地でようやく互角のバランス。
濃厚な強い味わいのシュークリームの代表格と言えるほど、よく出来ています。

さて。個性的なシュークリームは、まず生地ありき。
その生地の独得の風合いは、底をひっくり返して見ると納得できるでしょう(気になるお菓子はためつすがめつしてしまう習癖あり)。
んん? 鏡面のようにつやつや底光りしているのです。一般のザラッとしたものとはまったく一線を画しています。生地の組織が緻密に仕上がっているような。
おそらく、内側の白い部分を残すためにも高温で急速に表面を焼き固めて、低温に落としてじっくり焼いているのでしょう。底は焼成中にも水分蒸発の影響を受けにくいから、最初に焼き固められたつるつるの状態が残るということかな。
どうでしょう、シェフ? なぜだか、こんなことも気になってしまう私たちなのです。へへっ。

とまれ。こんなに美味しいシュークリームはあれやこれや御託を並べずに、素直にニマニマといただくのが一番です! 




●『サンビラーノ』 2.6×8.2cm 高さ5.3cmほど。
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イタリアのドモーリ社(DOMORI ドモリ社/表記はさまざま)の“サンビラーノ”という単一品種のチョコレートを使っているところからの、ネーミング。

ドモーリ社の説明によると、“サンビラーノ”はマダガスカル産のクリオーロ種カカオ遺伝子を多く含むトリニタリオ種、だそうです。
このケーキでは、75%のダーク(シェフ曰くスウィート)と51%のミルクを使用。

このドモーリ社、1994年創業の新興企業ですが、独得のクーベルチュール作りで今注目を集めている会社です。
というのは、従来不可欠と思われていたカカオバターやレシチンを一切使わず、カカオマスと砂糖だけを練り合わせて作られているのです。味の差が明確に出るのではないでしょうか。それに、カカオバターを使っていないのに口溶けの良さが売りなのですから、不思議ですよね。
木村シェフもこのチョコレートに魅せられた一人。前回ご紹介した『オペラ』にも同じサンビラーノが使われていましたね。

このケーキの構造は、極めてシンプル。重い生地が4層と、ダークのガナッシュが3層、ミルクが1層、それだけ。
そっと切り分け、上から下まで一緒に口へ運びます。
ぅん、んん、ふむ、んんん …………… なんともいえない口溶け感。
一瞬の重さのあと、もこもことした第二印象からのゆるりと溶けていく時の浮遊感は、ほとんど官能的、とさえ言い切ってしまいましょう。大人のケーキです。

生地は卵黄を多めに配合してモロモロとした独得の感触を生み出し、一気に溶けてしまうのを防止しています。最近流行りのサンファリーヌにするとガナッシュといっしょに溶けて舌にまとわりつき、重くなり過ぎるとのこと。生地の凹凸感を残すことで、ねっとりとしたガナッシュの溶融を時間差にしようとの配慮。
コニャックをアンビベして、ガナッシュの強い個性に対応する準備も怠りなく。余韻は長くはないけれど、一瞬の煌めきが印象に残ります。

なんといっても、“サンビラーノ”がともかく個性的。
ベリー系のかなり明確な酸味が主体となり、まず最初にキーンと鋭い香りが駆けぬける。どこかミネラルのような刺激、チョコレート独得の香りとフローラルな甘さに加えて、ふっと遠くから燻したような香りも。
複雑で余韻の長い香り。ほとんどワインを愉しむ世界。アロマやブーケといった言葉がぴったりです。
ガナッシュの生クリームなどの脂肪分でマスキングしていないところが、腕の見せ所。優れたチョコレートの長所をそのままに、より美味しい口当たりを追究しています。

重いのに独得のなめらかさがあるなんて、これをなんと表現すればいいのでしょう。なかなか適切な言葉が見当たりません。
陶酔感に酩酊感。しかもゆっくりとした重みが時間の進行をも止めてしまう。泥濘に呑み込まれて行く快美感。ちょっと感覚を揺さぶられる体験でした。

いろいろなものを削ぎ落とし、けっして派手ではありませんが、チョコレートの本質に迫ったケーキ。
残像はおそろしく鮮烈です。お見事!



いやあ、木村シェフ、やりますね。このところ感心させられっぱなし。急速に安定感と表現の力強さを増してきています。注目していきましょう。



●『シュークリーム』250円  『サンビラーノ』480円

●「ロトス洋菓子店」
 京都市下京区烏丸松原上ル因幡堂町699  TEL075-353-2050  定休日/水曜
 ※【年末年始のお知らせ】
  年内は28日も含めて水曜定休。
  お正月三が日は営業。4日水曜、11日水曜は定休日。
  16日(月)17日(火)18日(水)は3連休して、その後、通常営業に戻る予定だそうです。