シュターン(3)『しょうがのクーヘン』『ザントクーヘン『『ココスマクローネン』『ツィーゲル』…

兵庫県芦屋市、阪急神戸線芦屋川駅から東へ10分ほどのところにある「KONDITOREI Stern コンディトライ シュターン」さん。
生地の美味しさがとことんまで追求されていて、その品の良さ、繊細さ、じっくりと込み上げてくる満足感はほかに対抗馬がいないくらい。ドイツ菓子の枠を越えた、最良の職人さんだと云えるでしょう。


●『しょうがのクーヘン』 幅10cm 高さ5.7cm 奥行6.8cm 180gほど。
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レーリュッケン型(波型のでこぼこのあるトイ型)で焼いた、生姜風味のケーキ。

バターとマジパンがたっぷり入った、リッチな生地。浮粉も入っているので、さほどべたつかない良さがありますね。そこに、砂糖漬けの生姜がけっこうチラチラたくさん入っています。
表面にアーモンドスライス。

わぁ、包みを解くと、優しく華やかな香りが立ち上ってきます。あぁ、ふくよかないい香り。
一瞬リキュールを使っているのかと思いましたが、そうじゃないのですね。生地の豊かな風味に生姜の香りが重なって、響き合っているようです。どこかフルーツを思わせるような。不思議です。
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大事に、そっと口に運びましょう。
ふうぅ …… なんて、美味しいのでしょう。微笑んでしまいます。

香りの素晴らしさ、そして、生地の深みのある味わい、その存在感、口溶けの優雅さ。
ただただ、美味しさの世界に身も心も蕩けていき、しばし陶然。

生姜がほんの少し、ヒリッとするアクセント。卵とアーモンドの力強い味わいがあるからこそ、刺激をまろやかに包み込むことができるのでしょう。
焼き目の味が、一段深くて、より満足感を高めてくれるのもいいですねえ。画像



私は、素直に感嘆しました。
生姜がこれだけ主役となって、品よく主張できるとは思いもしなかったのです。
珠玉の逸品です。









●『ザントクーヘン(クランベリーとクルミ)』 6.3×8.8cm 高さ4cm 80gほど。
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前回も『ザントクーヘン(オレンジ)』をご紹介しています。
その時に、ドイツのパウンドケーキとお伝えしています。

基本的にそう訳すので、間違いではないのですが、「シュターン」さんの配合は、基本の 1:1:1:1 ではないので、厳密にはパウンドケーキではありません。
とくに浮粉を使って、極力グルテンを出さないようにしているところが、焼き上がりの食感をまったく違うものにしているのです。
Sand ザント、文字どおり砂のことですから、サラサラと崩れるところに妙味のある生地なのです。こちらの場合、とても肌理の細かい砂ですけれど。

生地は似たような配合であっても、少しの分量の違い、加える順序、混ぜる度合いなど、作業の細かな違いで、それぞれに個性的な生地に枝分かれしていきます。
谷脇シェフはそこをとても大切にしていて、ケーキの最終仕上がりイメージに一番ふさわしい配合と手順を選び取っています。

どの焼菓子もパッと見、地味な茶色っぽい見掛けのものが多いので、同じパウンド風のお菓子に見えてしまうかもしれませんが、ところがどっこい。一度味わって、繊細な違いを知ってしまうと、もう後戻りはできなくなります。ふふっ。

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はてさて。『ザントクーヘン』、断面をお見せしようと思ったのですが、脆く崩れてきれいな断面にはなりませんでした。ともかく、ほろほろ~ほどけていきます。

乾燥してバサバサと崩れる粉っぽいものとは全然違います。比較するのも恐縮するくらい。
崩れ易いのにしっとりとしていて、口溶けは素早く、とても気持ち良く味わいが広がってくれるのです。

クランベリーの甘酸っぱさ、クルミの香ばしさ、それぞれに魅力を発揮し、生地との相性の良さを示しています。
二つは異質の存在のままなのですが、不思議に喧嘩することなく、それぞれに個性を出して共存しています。面白いですねえ。




●『ココスマクローネン』 径2.7cm 高さ2.7cmほど。
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Makronenマクローネンとは、マカロンのこと。

ココナッツのマカロンですが、卵白はほとんど接着剤レベルで、砂糖とココナッツの美味しさ。
底をスウィートチョコに漬けて仕上げています。

チョコが加わることでとても美味しくなるのだけど、先にココナッツだけの部分を一口味わって欲しいな。ココナッツミルクの優しい豊かさが、心を和ませてくれます。

そしてチョコレートのところを一口。がらりと味わいが変わって、チョコレートの力強さが伝わってきます。

元々、小さな一口菓子をわざわざより小さく食べ分ける値打ちを感じてもらえるでしょう。


まっ、どう食べたっていいんですが、つまるところ、たった一口で人を幸せにしてしまう、ということだけは云えるでしょう。




●『マクローネン』 径3.7cm 厚み0.6cmほど。
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こちらもマカロン。
でもまったく食感が異なります。

ココナッツとチョコレートがないのはもちろんですが、マカロン生地自体が全然違うのです。
砂糖濃度が高い卵白が主体。マジパンが入っています。

ポイッと口へ。
ん? んんっ、な、なんだこれは …… ぬちゃにちゃ!  ほとんど柔らかな飴のよう。

焼菓子のカラッとしたイメージを覆されてしまいました。
焼き上がりの見た目は、サクッとしたクッキーのように見えて、じつはぐんにゃり、ぬっちゃり。
常連さんは“ぬちゃぬちゃ”と呼んでいるとか。
ネガティブ発言の名人、典子夫人は“歯に付くでしょ、くくくっ~”と笑っています。

袋を開けると、湿けた丸ボーロのように、重なり合って張り付いていました。
食感も近いものがありますが、それをはるかに超えて、まさに“ぬちゃぬちゃ”。
今流行りのパリのカラフル、すべすべマカロンではなく、地方のマカロンではこのネッチリ強い食感を体験したことはあるのですが、こんなにゆるゆる飴のようなのは、はじめて。

歯に付くのは苦手なのですが、あまりの面白さに夢中になっている間に、サラリと溶けてくれました。
砂糖を煮溶かした飴の香りと、クッキーを焼いた香りの中間を行く珍しい香りも楽しめました。バニラの陰からほのかに杏仁香もありますね。

なんでもないようなシンプルなお菓子。ですが、いゃあ、忘れがたいマカロンになりそうです。




●『ツィーゲル』 3×7.3cm 厚み1.2cmほど。
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バウムクーヘンを2度焼きしたお菓子。

今、バウムクーヘンを福島に送っていて、切れ端がいつも以上に多く出るので、よく焼いているとか。

ラスクのようなものですね。
ツヴィーバック(2度焼き)という呼び方もありますが、形からツィーゲル(Ziegel レンガ)という名が与えられています。

パンのラスクと違うのはグルテンがほとんど出ていないので、ザクザクとした強さが全くないところ。
こちらのバウムはメレンゲが入るので、サクッ、クシュッと崩れる軽やかさがもはや異次元のもの。
一瞬にして粉に戻るような食感に特色があります。サクサクの表面を粉がふんわり包み込むような感触があります。じつに、独特で繊細。

芯までよく焼き込まれているので、かすかにほろ苦さが加わり、赤ワインにも合うような深みがあって、なんだか癖になりますねぇ。

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●『ツィーゲル』ハート型 縦2.7cm 横2.5cm 厚み0.8~1cmほど。

わっ、小さくて可愛いっ! 
口に入れるのがもったいないくらい。

食べる前から、一瞬で笑顔になれる、お菓子です。








素朴で、派手な飾りではないけれど、あくまで繊細で上品。じんわりと心に響いてくるようなお菓子でした。
香りも、味も、食感も、深い印象もすべて…… 長く長く余韻が続きます。どれも素晴らしいですね。

いやあ、いつ行ってもなんだかほのぼのとした気持ちになれるお店です。食べる回数が増えるほどに、より深く好きになっていくようです。
谷脇正史さん、典子さんご夫婦の飾らない、構えない自然体の姿勢がこの心地よい空気を作っているのでしょうね。
食べればすぐに分かる事だからと、あえて選び抜いた素材のことも語らないし、コンセプト云々と難しいことも言おうとしない。むしろ、長年ドイツで習い覚えた大好きなお菓子のあるべき姿を再現し、ひたすら美味しいと思えるものに向かって、配合、混ぜ方、焼き込みなど、素材を100%活かすことに真剣に取り組んでいるのだと思います。すべての素材が持ち味を発揮して無駄がなく、収まるべきところに収まり、バランスよく輝いているのです。卓越した腕を持ちながら、少しも押し付けがましくない。自然体でそっと差し出すだけ。
やるだけのことをやっているから、何も言わなくても伝わるはず、というのがご夫婦の姿勢なのですね。



●『しょうがのクーヘン』870円  『ザントクーヘン(クランベリーとクルミ)』380円  『ココスマクローネン(10個入り)』380円  『マクローネン(6枚入り)』140円  『ツィーゲル(5個入り)』300円

●「コンディトライ シュターン」
 兵庫県芦屋市東山町1-10  TEL0797-34-5673  定休日/火曜・水曜