オンコーアンマタン(4)『シュトーレン』

兵庫県西宮市、阪神本線・香櫨園駅から南東に5分ほどのところにあるパン屋さん「オンコー アン マタン」( ENCORE UN MATIN )さん。
パン屋さんの出店ラッシュがつづいていますが、ここ1、2年でオープンした中で、もっとも興味をそそられるお店です。3kg、5kgといった大きなボリュームで焼かれる、男前のハード系のパン。目移りするほどバリエーション豊かなフランス各地(広くヨーロッパ中に及ぶ)の菓子パン。
明確な主張と正確な技術。世界を渡り歩いて指導してきたキャリアは伊達ではありません。

さぁて、毎年師走になると、3本は食べてしまう『シュトーレン』(「パイ日和」特集8/シュトーレン百花繚乱 伝統派から個性派まで堂々の20撰! をご笑覧ください)。
2012年、待ちに待った1本目は、大好きな、ここ「オンコー アン マタン」から。昨年、一切れ食べてとても気に入っていたので、今年は絶対に食べるぞ、と胸に誓っていたものです。
では、シェフのパトリス・ペゲロさんが意外なところで習った『シュトーレン』のご紹介です。


●『シュトーレン』 11.5×17.7cm 高さ7cm強 610gほど。
画像
フランスではドイツ国境に近い(度々ドイツに編入されたことのある)アルザスでは一般的ですが、ほかの地方ではクリスマスケーキといえば、『ブッシュドノエル』一本槍なのだそうです。
だから、ブルゴーニュ出身のペゲロさんはお店を持つ前の赴任地、北京で働いていたとき、トップのパティシエがかつてドイツ人から習ったというレシピを持っていて、それを教えてもらったのが人生初(!)のシュトーレンなのだそうです。

“こりゃ美味しいや”ということで大好きになり、日本で流行っているということもあり、お店でケーキは作っていないので『ブッシュドノエル』がない店内をクリスマスっぽくするアイテムとして愛している、ということのようです。

あら~っ、意外ですね。最近の日本のフランス菓子店はこぞって作っているので、フランスでもポピュラーな存在なのだろうと思いこんでいました。何でも聞いてみるものですね。



画像こちらの『シュトーレン』、なにが凄いかといって、すべてなのですが、順次、説き起こしてまいりましょう。

まず、生地。
みっしりと目の詰まった重みのある食感。
もちろん醗酵生地なのですが、醗酵を抑えた仕上がり。これが周囲の粉糖と口の中で混ざり合ったとき、トロリと溶ける感覚が素晴らしい。
この口溶け、なかなかないですね。生地にハチミツが練り込まれているからこそのしっとり感。ここに、トロリの序章があるのです。

そして、香り。
オレンジピール、レモンピール、レーズン、リンゴなどフルーツの、それらを漬け込んだキルシュ、ブランデー、ラムという芳醇なスピリッツ(その日漬けてすぐ使うという浅漬け、1週間ほど寝かす。時間をかけて食すものなので、それも考慮にいれているそうです)。
それらと、ヴァニラの、イーストの、澄ましバターの、そして、カルダモン、ナツメグという珍しい取り合わせのスパイスの、それぞれの香りが心に沁み入ってくるのです。
あっ、いけない、真ん中に贅沢に、どーんと一本入っているマジパンの杏仁香も、ふっと香ります。この甘やかな懐しさもいい。


画像パサつきの一切ない、しっとりとした滑らかさ。心に沁みてきて胸がいっぱいになりそう、ふはぁ!

とくに、スパイスの使い方の品の良さは、格別。
カルダモンは元々品の良さで際立っていますが、ナツメグはハンバーグなど肉料理によく使うもので、多くの場合くどい香りになりがち。

ところが、なのです。
ここでは爽やかですらあるのです。ナツメグ自体の鮮度が良く、おろしたてを使っている証拠ですね。スッキリと魅力的な香りは独特で、他では経験したことのない軽やかさに誘ってくれます。
それでいて、バターの円やかで豊かな香りのヴォリューム感も合わせ持っているのですねぇ。
なんとも贅沢の極み。お見事です!





一昨日、あるパティスリーの信頼できるシェフとこの素晴らしい『シュトーレン』話になり……、三人でわいわいと盛り上がり、大絶賛。彼が言うには「あの香りはなかなかだせないよね」とのこと。あぁ、やっぱり分かる人はわかるんだよねぇと自分のことのように嬉しくなったのでした。
そうそう、お店の通販(HP)でも買えるようになったそうですよ。きっと全国区の人気商品に育つことでしょう。

四半世紀前から、毎年師走になるといろいろな『シュトーレン』を二人で食べてきましたが、これほどオーソドックスでいて印象的なものは稀ですね。
毎朝食べていて、口に入れる度に歓びで瞳孔が広がるのを感じるほど。おかげで、師走の慌ただしい時期というのに、朝から、二人とも笑顔です。ふふふっ。

クリスマスが近付くのを愉しみに、薄く切って、何日も掛けて食べるはずのものなのに、ついついお代わりしたり、分厚く切って食べてしまいます。
そして、毎日、味わいが少しずつ、より円やかに豊かに香り高くと熟成していっているような。テーブルに置いた時に、すでに昨日とは違うような。シュトーレンの醍醐味、も満喫できますね。
こーんなに美味しいなら、嗚呼クリスマスまで絶対もたないよぉ。どうする どうなるっ、パイ日和!



●『シュトーレン』1980円(3.2円/g)

●「ブーランジュリー オンコー アン マタン」
 兵庫県西宮市川添町4-2  TEL0798-42-8544  定休日/月曜