雨の日も風の日も (3) 『ドライトマトのフーガス』『紫野ブレッド』『おさつのクグロフ』

京都、大徳寺と船岡山の間、建勲神社バス停の前にあるパン店「雨の日も風の日も」。オーソドックスなハード系も魅力たっぷりだが、オリジナルの菓子パン、総菜パンに加えられた創意にも見るべきものがあり、商品を選ぶときのワクワク感がたまらない。
今回は、小島秀文シェフ考案のオリジナルシート食材を使ったパンを紹介しよう。
いろいろな食材をパン生地に折り込むために、シート状に延ばして使っている。この発想自体は彼の発明ではなく、すでに食材業者が開発している。
シェフが神戸の「コムシノワ」で修業を終える時に西川シェフ(現「サ・マーシュ」オーナーシェフ)から“出来合いのシートなんか使うなよ”と釘を刺されたことがずっと頭に残っていたという。
ある日、キッチンで場所塞ぎになっているパイローラーを見ていて、“これでシートを作ろう”と閃いたそうだ。デニッシュ、クロワッサン、パイだけで終わらせてはもったいない、ということだ。
その結果生まれたものの中から、以下の3品を。


●『ドライトマトのフーガス』  18×14cm 厚み0.7cm 45gほど。
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チーズをシートに。

生地に折り込み、層状に。さらに薄く延ばし、ドライトマト、パプリカ、ほんの少しの唐辛子で作ったペーストを塗り、低温で長時間パリパリになるまで焼いている。

ナポリ風ではなく、ローマ風の薄焼きパリパリピザのような味わい。

硬くて、パリパリッ感が痛快だし、チーズは生地とほとんど一体化しているけれど、生地の中から時折顔を覗かせることが楽しい。

この食感の楽しさとそそる度の高い味わいに、目を離した隙に、いつもの書き手イワモトがひとりでカリカリと食べてしまっていた。
止められない止まらない危険区域に入ってしまった、とのこと。むむ。





●『紫野ブレッド』  15.5×5.7cm 高さ4cmほど。
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紫芋のペーストをシートに。

食パン生地にシートを折り込み、さらにポイセンベリーで煮詰めたクランベリーを包み込んで焼いている。

こちらは低温で焼き目を付けずに、しっとりもちもちとした焼き上がり。

紫芋は、所在地の紫野に因んだ選択なのかな。

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姿はややもっさりしていて、味は薄く主張は弱いが、カットした断面がじつに鮮やか。

クランベリーの酸味とシャキシャキした食感がフレッシュ感を伴っており、美味しさの中心だね。







●『おさつのクグロフ』  底径9.3cm 高さ5.5cm 110gほど。
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サツマイモ、白胡麻、バターをシート状に。

シートを折り込んで、真ん中にサツマイモの角切りを包み込み、クグロフ型で焼いている。
仕上がりに、レモン風味のアイシングと黒胡麻を振っている。

ふわふわもちもちした食感。

白いクグロフということだけで異彩を放っているし、異質と思われるレモンとゴマが、サツマイモを介して仲良く共存が成立するということが面白い。
元々、レモンとサツマイモ、サツマイモとゴマはそれぞれ相性がいい。ここでは、その両端が寄り添っている。

商品名の『おさつのクグロフ』からイメージした素朴な味わいというよりも、レモンの酸味がより個性を際立たせているようだ。




ちょっとしたアイデアで、見たことのない新しい商品が生まれ、味の伝わり方にも新しさが出るなど、発明の面白さが伝わってくる。
あるコンテストに応募した時に、オリジナルのガナッシュのシートを使い、書類審査にパス。本選で審査員の西川シェフと出会い、“ああ、お前か”と再会を喜びあったとか。
小島シェフのアイデアマンぶりは有名で、レシピを真似る人も増えているようだ。
だけど、オリジンを開発した人の、苦労や悩みを乗り越えたなんとも言えない喜びや面白さ、達成感などは真似できない。そこにオリジナルとエピゴーネンの差があり、食べ手にも自然に伝わってくるもの。
小島シェフのパンを食べていて、いつも豊かな気持ちにさせられるのは、ご本人の精神が満たされているからに違いない。



●『ドライトマトのフーガス』160円  『紫野ブレッド』280円  『おさつのクグロフ』220円

●「雨の日も風の日も」
 京都市北区紫野東野町6  TEL075-432-7352  定休日/無休(※臨時休業あり)