パティスリーエメラ(1)『デュオ』『ミゼラブル』『オペラ』『サバラン』『フィナンシェ』『スペキュロス

奈良県生駒市、近鉄奈良線・富雄駅を南へ降りてまっすぐ1分。「パティスリー ショコラトリー エメラ」さんがあります。1970年創業、昨年2013年10月にリニューアルし、2代目の藤原尚樹シェフ(1973年生)が新たに魅力的なレパートリーを展開しています。奥様の伊公子さんの接客も快適です。

先日、「JR大阪三越伊勢丹」のフランス菓子フェアに、クボタがふらっと立ち寄ったときのこと。
初めて「エメラ」さんのケーキを間近に見て、これは本店に行ってすべてのレパートリーを把握しなければと、思ったそうです。ちょうど、「ラクロワ」の山川シェフから、その場で藤原シェフを紹介してもらい、少しお話した印象も好人物でとてもよかったのだとか。帰ってくるなり、ただいまの挨拶を飛び越えて、開口一番、「今週中に「エメラ」へ行こう! 」
普段テンション低めの彼がそこまで言うなら、と私たちとしては珍しく猛ダッシュで行ってきたというわけで。

今まで奈良県のお店は、生駒駅近くのお店が1軒あるのみ。それだけ精神的な壁の高い、“遠い”ところだったのですが、今回はその壁を取っ払うだけのパワーが漲ったということ。
もうすっかり、気持ちは足しげく通いたいお店になりました。


●『デュオ』 径6.5cm 高さ7.9cmほど。
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その名の通り、2種類のチョコレートのムース。
スウィート(ヴァローナ・カラク)とミルク(ヴァローナ・ジバララクテ)。

甘さのレベルが均一で、二つを明確に区別するために、ミルクチョコにトンカ豆をカットして煮出しています。
トンカ豆の香りの表現は、シェフによって、食べ手によっても様々ですが、藤原シェフは“さくらリキュール”なのだとか。うんうん、わかる気がする。

が、しかーし。私たちはうかつに食べて、底と中間にかましているチョコレートのビスキュイが思った以上に主張していることに気を取られ、トンカ豆は気がつかず終い。たは…。
ミルクチョコに存在感を与えるため、どのレベルの塩梅で香らせるか難しいところですね。

ビスキュイがカカオではなく、チョコレートを使っていることで風味が強く、ややビター。
ムースの部分と明瞭に対照を作り出し、食べやすい甘さの軽いチョコムースに、キリッとした引き締めを感じたのでした。
(いつものことなのですが、生地好きの宿命としては、ムースの中の小さな生地にも私たちの意識がいってしまう傾向が。ただ、誘導されてしまうのはいつもとは限りません。その生地が単体で食べたくなるほど美味しいときだけです)


お子さんでも食べやすいチョコレートケーキ、とのこと。
ふわっとしたムースの口溶けの品の良さに惹かれますね。





●『ミゼラブル』  2.5×10cm 高さ4.5cmほど。
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嗚呼、白い姿が凛として美しい。

この姿を見ただけで、本店来訪を決めたのでした(写真は、白が苦手のカメラの特性で黄色っぽくなってしまっています。乞うご寛恕)。

ベルギーの伝統的なケーキ。
本場では生地2枚にバタークリームを分厚くサンドしているそうです。シェフはあえて生地を3枚にし、クリームを薄くしています。

生地は卵白生地である、シュクセ。
クリームはアングレーズベースでヴァニラの甘い香りに満たされています。

甘くネーッチリとした生地に、トローリと滑らかに口に広がるクリーム。
シンプルの極みのようなお菓子ですが、とても豊かな味わい。
ちゃんと主役を張っている、強く印象に残る食感の生地を味わっていると…… バターの香り、アングレーズの卵の風味、ヴァニラの芳香という甘い夢を紡ぐ香りに包まれてしまいます。

シンプルで温和な味わいですが、どこか研ぎすまされたものを感じますね。ただの田舎菓子には終わらせない、という意気込みも込められているようです。

おかげで、とても豊かな食後感を味わうことができました。素晴らしいっ!





●『オペラ』  2.5×9.5cm 高さ3cmほど。
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藤原シェフはハードに攻めまくるケーキは趣味ではないと言います。

でも、ぼんやりした中庸が好きだと言うことではないようです。攻め過ぎることを戒めているのでしょう。

このオペラはチョコよりも珈琲が際立つ、主張の明確なケーキ。

ジョコンドのアンビベとバタークリームにコーヒーが入るだけでなく、ガナッシュにもコーヒーが入ります。
漆黒のグラッサージュは定番のパータグラッセではなく、ゼラチンの入ったもの(『アンブロワジー』のグラッサージュ)。

シェフ、パータグラッセは好みではないそうです。ゼラチンタイプは時々食べる時にペラッとはがれてしまうことがありますが、見事、はがれずにエレガントに食べ終わりました。
3cmという高さもいいし、そういえば、下の生地とクリーム部分も外れなかったですしね。

元々、オペラにはアルコールは使わないもののようですが、入れないと少し物足りないのでは、と思っていたのです。
が、これだけコーヒーの風味が強いと、必要ないですねぇ。

3種類のパートにコーヒーが働くことで、完全に一体となり、“余白のない密な味わい”。
これほど濃密なオペラは珍しい。うん、いいですねぇ。




●『サバラン オランジュ』  径7.5cm 高さ5.3cmほど。
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シェフは、グルテンを思い切り出したパサパサのブリオッシュが嫌いだそうです。

ご自分は目の詰まったしっとり生地に焼き上げています。いったん冷凍して、ネグリタラムとコアントローのシロップに浸します。ここでオレンジの風味付けをしているのですね。
中にオレンジの果肉、トップに皮の細切りとシャンティ。

カットすると、お約束のジュワッ! 
おーとっと、皿にジュースがこぼれ出すほど、たっぷりシロップを吸わせています。

オレンジの風味が生きていて、甘み、アルコール感ともにやや弱いかなと感じさせはしますが、オレンジの爽やかさという魅力が加わって、とっても美味しいなぁ。

じつは私たち、恥ずかしながら、スポイト初体験。シェフの話ではパリの「パン ド シュクル」で初めて見掛けたとか。ふふっ、結構盛り上がりますな。

クボタはスポイトのラムシロップ(アンビベより濃度が高い?)を加えた濃厚な味わいも捨てがたい、と言っています。お菓子派と呑んべい派で意見が分かれるかも知れませんね。





●『エコセ』  底辺8.7cm 厚み1.7cmほど。
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バターたっぷりのアーモンド生地を、チョコレートのダクワーズが覆い、表面にはアーモンドダイスがびっしり。

フランスでは Ecosse (スコットランド)の名で知られていますが、ドイツでは“レリュッケン(Rehrucken)のろ鹿の背中”と呼ばれ、トヨ型で作っていますね。

所変われば品変わる、というのが普通。
品がいっしょで名前の方が変わってしまうということは、あまりに美味しいお菓子で品は変えられないということなのでしょうか。

リッチな印象で、しっとり感も格別。
こちらの特色としてはヴァニラシュガーを使っているのでしょう。
ヴァニラの香りの陰から、かすかに杏仁香が漂ってきます。その品の良さをチョコレートの力強さが覆っていきます。

食べている間にストーリーが感じられる、そこがいいところです。




●『フィナンシェ』  4.3×9cm 厚み1.6cm 30gほど。
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ノワゼットのダークな色ではなく、黄金色のフィナンシェ。

お父さんが焼いていたフィナンシェがしっとりとしていて優しい味わいだったそうで、尚樹シェフもその方向を踏襲しています。

バターのお菓子でもなく、アーモンドのお菓子でもない。あくまで『フィナンシェ』というお菓子。全体の調和した味わいこそが求めるもの、とのこと。

バターは焦がしが浅く、溶かしバターに近いと言えるでしょう。
逆にアーモンドはメッシュの粗いものにして存在感を出そうとしたら、スペイン産に辿り着いたとか。焼く温度は190℃とやや低め。

何かが突出することない温和な味わい。
とはいえ、ジュワーとバターがにじみ出てくる感覚がいいですね。
溢れるほどだと、くどくなりがちですが、このしっとり感が本当に優しく感じられますね。




●『ティグレ』  径6.3cm 高さ1.9cmほど。
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一般に、フィナンシェによく似た生地にチョコチップが入り、センターにガナッシュ。
フィナンシェショコラでも良さそうなものですが、明らかにまったく違うお菓子です。

生地が、チョコチップと出会って蕩ける瞬間を体験できるところ。
たっぷりのガナッシュの美味しさが前面に(やがて全面に)出てくるところが贅沢感があって、文句なしの美味しさ。

上述の『フィナンシェ』とは違い、サックリした印象。生地の存在感が失われないところも魅力ですね。






●『ケーク オ フリュイ』  5.5×5cm 厚み1.7cmほど。
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カトルカール風(強力粉を入れてフルーツを落ち着かせるところが少し違う)の生地に、フルーツミックスにさらにアプリコットとプラムのセミドライを加えたものが入っています。

もともとミックスは洋酒に漬けたものなのでしょう、リッチな味わいですが、それ以上にフルーツのフレッシュ感を活かしたいとのこと。
たしかにアプリコットのキリッとした味わいが魅力的。

ミックスの洋酒をよく絞っているので、生地がジットリせず、ふわふわと繊細で柔らかく、しっとりした食感がどこかホッとさせてくれますね。





●『スペキュロス』(17枚入り) 径5cm 厚み0.3cmほど。
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シェフの修業先であるベルギー特産(ものの本によると、もともとはオランダに古くから伝わるものだとか)のクッキー。

特にクリスマスによく焼かれ、聖人や聖堂などの宗教的題材をモチーフに木型に押し付けて焼いたもの。
時代とともに、現地ではこのようなシンプルな形で、普段からスーパーで売っているポピュラーなものだそうです。
珈琲などに添えられるプチフールとしてもよく利用されるとか。

スペキュロス粉というミックススパイス(シナモン・クローヴ・カルダモンなど)に、さらにシナモンを加えて香り付け。
薬臭くならずに、品良く香っているところが藤原シェフのお手並。奥様の伊公子さんも大の好物だそうです。

堅焼きのクッキーで、薄く作られているので、パリパリ、カリカリと食感が楽しく、噛むたびに香りが弾け、優しい甘さが広がっていきます。

一枚が、二枚に三枚に…。常備したいお菓子ですね。




●『ピラミッド』  6.8×5.2cm 厚み2cmほど。
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1枚1枚薄く焼いて張り合わせていくタイプのバウムクーヘン。

何故、ピラミッド型でもないのにそう呼ぶのか気になっていたのですが、シェフによると「重ねて積み上げていくさまが、ピラミッドのようだから」とのこと。

創業以来のお菓子で、シェフのお父さん、初代の藤原洋治さんのレシピ(「心斎橋プランタン」修業時代にドイツ人シェフに習ったのだとか)に従っているそうです。

いま流行のまーるいバウムクーヘンもいいですが、このタイプのものも大好き。これを見つけた時、思わず懐かしい友にあったように、ニマニマが止まりませんでした。

生地を張り合わせるのは、ほのかなシナモン風味をまとったアプリコットジャム。
卵とバターの豊かな味わい、コーンスターチが入ることによるサラサラとした口溶けの良さ。

アプリコットもシナモンも分かるかどうかといったレベルの利き方なのですが、あることで奥床しい品の良さが加わって、一口ごとに味わい深く、食べている時間を大切にしたくなります。

ふうぅ、しみじみと美味しいなぁ。
この時代の職人さんならではの味わい。
昔は洋菓子のレパートリーが狭く、職人さんたちは基本技術の研鑽を重ねて、ライバルたちに差をつけようとしていたのです。腕の差が味の差となって、ストレートに表現されていたのではないでしょうか。

お見事です。このレシピが受け継がれたことを喜びたいですね。
では、ミルクティーをお供に、ごゆっくりどうぞ。





●『フロランタン』  3.5×8.3cm 厚み0.9cmほど。
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これもお父さんのレシピ。

シナモン風味のパートシュクレの生地に、よく煎ったアーモンドのカラメル和え。
カラメルはバターの風味が豊かで生クリームはやや少なめなのかな。

ザクザクサクサクッと気持ちのいい食感。
アーモンドカラメルの香りが弾けますね。

そういえば、生地のシナモンもほんのり香っているのかな。存在を示しつつ主役を邪魔しないところがいいですね。

カラメルの濃度もピタリと決まって、ザクザクと砕けて口溶けがいいし、素直に楽しめるお菓子です。





藤原シェフにケーキの背の高さを尋ねると、即座にミリ単位で答えが返ってきます。ひゃあ、すごい! 
「高さにはこだわっているんです」と、美味しさの追求の要のような意識を持っています。
お菓子作りの基本は「バランスです」と、幅広く目配りの利いたお答え。素材同士や隠し味とのバランスだけなら、多くのパティシエが思っていること。
しかし、藤原さんはそれにとどまらず、ケーキのビジュアルプレゼンテーションも、接客サービスも味のうちと、お店の総合力で、お菓子の味わいが異なるということを明確に意識しています。
そうなんですよね。笑顔の接客で送り出されたときのお菓子の美味しいこと、といったら。ビジュアルは選ぶときの食欲を先導しているし、大切なんですよね。それだけ、食べるときの精神的な影響の大きさを認識しているようです。

その上で、ケーキの背の高さ。
これは、一口に入るケーキの量、パーツのバランスを意識しての決定。だから、こちらのケーキは上から剥がしながら食べることは厳禁。縦に切って、上から下までの一式を一口で食べたいですね(ま、当たり前の話なのですが、出来ていない人がいかに多いか、ということでもあります)。
品良く繊細さを持ったお菓子が並ぶだけに、わずかなバランスの狂い、ケーキを並べたときの線の食い違いを致命傷のように感じてしまう、ということのようです。

こちらのお菓子を食べてみれば、バランス感覚の絶妙さに納得がいき、素材の持ち味の充実に、二度、三度と頷かずにいられないでしょう。その鋭敏な感性に打たれる。



●『デュオ』460円  『ミゼラブル』430円  『オペラ』460円  『サバラン オランジュ』420円  
『エコセ』210円  『フィナンシェ』190円  『ケーク オ フリュイ』210円  『ティグレ』230円  『スペキュロス』420円(17枚入り)  『ピラミッド』180円  『フロランタン』190円  ※すべて外税

●「パティスリー ショコラトリー エメラ Emera」
 奈良県生駒市富雄元町2-6-40  TEL0742-44-6006  定休日/水曜  営業時間/平日11:00~20:00 日祝11:00~19:00


※引き続き、ブログ「パイ日和おまけ」では、このお店のボンボンショコラを紹介しています。
※ブログ「パイ日和」では、このお店のパイ&タルトを紹介しています。