パティスリーアキト(1)『オペラ』『コンフィチュール/ミルクジャム、ピスタチオのミルクジャム』

神戸、JR元町駅近くに、2014年4月23日にオープンした「パティスリー AKITO 」さん。
十分なキャリアを経た田中哲人(あきと・1967年生)シェフのお店だけあって、大人の落ち着きが店内のそこかしこに感じられます。たとえばテーブルに置かれたオレンジ色の革装のメニューブックなど、重厚の良さを知っている大人がカジュアルダウンしたエレガンス、といったイメージ。
ケーキも同様で、素材の味わいをしっかり出しながら、過激にしない、複雑にしすぎない節度のある、あえて一歩引いてみせる品格が伝わってくるのです。
やはり、パティシエは四十の坂を越えてからが本物かなぁ、と思わせる所以ですね。


●『オペラ』  3.3×7.8cm 高さ3.3cmほど。
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フランス菓子の定番中の定番。

が、しかーし。
当たり前のような顔をして、かなりの革新を行っているのですから、食べて驚くなかれ。

しっかり焼いたジョコンドに、たっぷりのコーヒーシロップをアンビベするのは常道。
シロップがこぼれないのも、上手な人であれば、常識範囲。

コーヒー風味のバタークリームはパータボンブベースで、離水ぎりぎりまでコーヒーを呑ませています。
だから、口に入れてバターがなめらかに溶け出すバタークリームの感覚ではなく、最初からシュルシュルと水になって溶け出すのです。

ジョコンドのシロップとともに珈琲の風味に、薫りに……、はぁ打ちのめされるでしょう。

このコーヒーの主張に負けないのが、間に薄く挟んだガナッシュ。
カカオ分60%台のものを使っているそうです。50%台だとコーヒーに負けてしまうし、70%台になると強すぎるのだそうです。
てっぺんのパータグラッセも半分グラッサージュとの中間タイプにすることで、薄ーく掛けられるとのこと。食感の邪魔をせず、チョコの風味も良くしているのですね。

結果として、コーヒーの風味を満喫しつつ、チョコレートもけして負けていないものになり、しかも、生地がモゴモゴしない、軽やかなケーキに変身を遂げているのです。優雅な印象。

いゃあ、びっくりのお見事さでございます。




●『コンフィチュール/ミルクジャム、ピスタチオのミルクジャム』 @160g入り。
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「菓子sパトリー」(「ホテルピエナ神戸」)時代に『ミルキッシュジャム』の開発で名前を上げた田中シェフ。

じつは勤め先である会社名義で製法特許を取得していたので、開発した本人でも、独立すると同じものは作れないのだそうです。
長くお世話になったホテルへの、置き土産とのこと。

そこで、カラメル味の強かったルセットを変更して、よりミルクっぽい『ミルクジャム』を新たに開発し、今後の柱にして行くことを決めているそうです。
売り上げの面だけでなく、ケーキにもさまざまに使われ、「AKITO」の味わいのベースにミルクの円やかさがあるということになるのでしょう。

店内には、ジャム11種ほど試食できるコーナーがあります。いろいろ試して買えるのは助かりますね。そうそう、瓶も返却すれば、50円バックしてくれるそうですよ。これまた、ありがたい。

◆『ミルクジャム』
牛乳に加糖練乳、グラニュー糖、生クリーム、ヴァニラ。シンプルな素材を凝縮させた味わい。
牛乳の滋味が力強さを含んだ味わいに変化しているものの、甘過ぎ、くどいという世界とは一歩距離を置いています。
ヴァニラもほのかで、牛乳の持ち味を損なっていません。
一朝ごとに、パンに塗った『ミルクジャム』で、自然の恵みの豊かさに、幸せを感じることでしょうね。
いやいや、パンだけでなく、ジャムとの相性抜群のものといえば、そう『ビスキュイ・ド・サヴォワ』。
これもジャムの愉しみを広げるために作っておられます。他所ではあまり出会わないですね。ややパサつく生地なので、のっけて食べたいな。

◆『ピスタチオのミルクジャム』
たくさん種類があるなかから、またしてもピスタチオを。なにせピスタチオ党ですので、かぶってしまいます。
さて。ミルクジャムをベースに、ピスタチオペースト(シシリー産)がたっぷりと入ったもの。
ひゃあ、このマリアージュは素晴らしいですね。
ピスタチオの風味が生きている上に、ペーストの本来持っている油っぽさがなく、口の中がベタ付かず、なめらかな口溶けが得られています。
風味はややミルクに隠れ気味になりますが、それでもたっぷりピスタチオらしさが残っているのが嬉しい限り。




田中シェフは30代の後輩シェフたちの活躍ぶりを、ニコニコと眺めています。アグレッシブに味を重ねて重ねて、“これでもか”というケーキを作っているのを、「自分もああいう時期を経験していますからね。どんどん、やってもらわないと」と、余裕のエールを贈ります。
ご自分は「“なかたに亭”の中谷さんみたいに、素材一つだけというところまで究極の引き技にまでは至っていないし、まだ、そこまでシンプルにする勇気は持てないですね」と。
過剰さは排除しながらも、まだまだ表現意欲の強さを持ちつづけているご様子。頼もしいですね。



●『オペラ』400円  『コンフィチュール/ミルクジャム、ピスタチオのミルクジャム』@800円  (※外税)

●「パティスリーアキト」
  神戸市中央区元町通3-17-6  TEL078-332-3620  定休日/火曜  営業時間10:00~19:00

※ブログ「パイ日和」では、このお店のパイ&タルトを紹介しています。