モンプリュ(3)『ファーブルトン』『ヴォストック』

神戸、海岸通のお馴染み「パティスリー モンプリュ」さん。関西を代表するトップパティシエの一人、林周平シェフのお店です。
品揃えの充実、1品1品の完成度の高さで群を抜く存在として、誰もが一目置かざるを得ません。30席以上あるカフェがいつも満席なのもむべなるかなですね。
本日は、いつも売り切れていてあまりお目にかからない焼きっぱなしに出会えたので、ご紹介しましょう。


●『ファーブルトン』  径7.5cm 高さ4.3cm 100gほど。
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ブルターニュ地方のお菓子。

卵、牛乳、粉、砂糖を混ぜた液種を焼いたお菓子で、クレープとカヌレの中間的なイメージと言えばいいでしょうか。far とは、もともと小麦で作ったお粥のことです。

以前は置いている店が極めて稀でしたが、最近はちょくちょく目にするようになってきましたね。

こちらのものはヴォリュームたっぷりで、名産地アジャンのプルーンが入っています。
元々、粉は讃岐産のもの。林シェフが香川出身だから、と思ったら、たまたまだそうです。

でも、この日は、試験的にフランス産の薄力粉を使用したとのことでした。
ん? 強力粉から薄力粉へ? と疑問に思った人も多いのではないでしょうか。

林シェフによると、讃岐うどんは強いコシで有名だから、当然、タンパク質の多い強力粉のイメージがありますよね。でも、うどんに用いられる中力粉のなかでもタンパクが少なく、踏んで踏んで踏みまくってコシを出しているのだとか。ふむ、何事も生半可な知識ではいけない、といういい躓きの石。
微妙なところで、いろいろ追求を繰り返しているのですね。

はてさて、その味です。
では一口、臆せずがぶりといきましょう …… ん、おいしい!

もっちりねっちりとした弾力。ほとんどカスタードを焼いたような、どこか懐かしさを感じる風味。塩気(ブルターニュだから有塩? まさかね)もいい塩梅。

定番のプルーンは、ふくよかな果肉でコクが豊か。穏やかな酸味と甘みなので、優しい味わいと相性ピッタリ。

こういう素朴なお菓子は、けして派手ではありませんが、やっぱり並んでいると嬉しいですね。
噛みしめるたびに、おなかと心をまあるく包み込んでくれるような、その優しさに惹かれていきます。




●『ヴォストック』  径10,5cm 高さ3cm 110gほど。
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これは元々、クロワッサンオザマンドなどと同様に、残り物の始末菓子なんでしょうね。

生地はブリオッシュ。一度トーストしてからシロップに浸し、クレームダマンドを塗り、スライスアーモンドをたっぷり載せ、粉糖をまんべんなく振りかけて焼いています。

口元へ持ってくると、ラム酒がふわんと香って、いやがうえにも食欲をそそります。

ブリオッシュはたっぷりのシロップを吸って、ジュワッとこぼれるほど。
崩れやすいものですが、最初から正体なく崩れるのではなく、一瞬生地の強さを感じさせるところに妙味があります。

そして、表面のアーモンドスライスのパリパリとした強い歯触り、その硬軟の対比が面白い。
生地も味わい深いですが、さらに少しのダマンド(リッチな味わい)とラム酒が奥深いコク味を作り出しているのではないでしょうか。
そのためか、癖になる食べ飽きない仕上がり。ペロリと平らげてしまいました。

パティスリーで出会うヴィエノワズリーは、生ケーキに比べると低価格なので、ついいろいろ購入したくなりますね。美味しすぎるので、食べ過ぎには要注意ですぞ。ふふっ。





林シェフの修業先であるパリの「ジャン・ミエ」が昨年店を閉じました。
日本人で修業した人は枚挙に暇がありませんが、特別ルートの日本人枠があったようです。が、それ以外には、つねにウェルカムなわけではなく、林さんは12回落ちつづけ、13回目にやっと叶ったのだとか。
何故、13回目に受かったか気になりませんか? 
その頃、「ジャン・ミエ」のシェフ、ドゥニ・リュッフェルさんと知り合いだという、日本人シェフ・キュイジニエ(ジョルジュサンクホテル前のレストラン「レ・ジョルジュック」)石丸さんと懇意になり、彼を通じてドゥニさんを紹介してもらうことに。会うとその場でドゥニさんに電話。さっそく翌日、「ジョルジュック」で会うことになったそうです。
会うと「なんだお前か、明日から来い」と即決。フランスはコネ社会なんだと思い知ったということです。

林さんが幸運に恵まれていたのではなく、強い目的意識と挫けない意思を持っていたからこそ、閉ざされた扉が開いたのでしょう。渡仏以前、専門誌で目にして衝撃を受けた、その憧れの存在に辿り着くまでの初志貫徹の生き方が素晴らしい。
最近はすぐに挫折する若いパティシエの話をよく耳にしますが、自分が本当になりたいものに向かって歩みを止めないということが、やはりなにより大切なのですね。
そんなこと、重々わかっちゃいるけど、現実になると出来ないだよなぁという若者のため息も分からないではないのですが。
でも、ため息の前に実行のプランを練る、悩む前に行動する。その逡巡の有無が、人生の成否を決しているようです。まさにルビコン川を渡る決心が必要なのですね。


以前、“眼光”シリーズのインタビューで聞き漏らしていたことを教えてもらったので、ご紹介しました。



●『ファーブルトン』238円  『ヴォストック』286円  (※外税)

●「パティスリーモンプリュ」
  神戸市中央区海岸通3-1-17  TEL078-321-1048  定休日/火曜  営業時間10:00~19:00