オーディネール(2)『ボンボンショコラ7種』『トリュフ3種/オーディネール、シャンパン、トンカ』……

大阪市西区、新しい人気スポットになった南堀江にある「パティスリー オーディネール」さん。洗練されたケーキですが、店名通り日常に愛されるお菓子として、トゲのある味わいを避け、品よく優しい表現に冴えを見せています。
初めて訪問した前回は、シェフの長谷川益之さんのケーキをご紹介しました。
本日は、お約束通り、奥様でショコラティエール(&パティシエール)である実由起さんのチョコレートをご紹介しましょう。

         
チョコレートのご紹介の前に、“ショコラティエール長谷川実由起一代記”(1980年生)を一くさり。
今を去ること約20年ほど前。ところは、北陸、金沢の町。
しんしんと降り積もる雪の中とはいえ、あろうことか町中で彼女は遭難しかかった。
塾帰りに迎えにきてくれるはずの母親の車が来ない。1時間ほども待つうちに、どんどん雪は深くなって行く。「寒いよーっ、凍えるよう…」とつぶやきながら手をこすり、身体をさすりしていると、おやっポケットに何かある?
見つけたのは、明治の『メルティーキッス』。
思わずかじかんで震える手で、口に入れると、寒さにもかかわらず素晴らしい口溶け。みるみる元気も湧いてくる。「なんて美味しいのぉ!!」と感激に浸っているところへ、お母さんの車が。凍死寸前をチョコレートに救われたのだった。

以来、何があってもチョコレートの日々。中学生だった彼女は、なぜだかメーカーを間違えて、グリコにどうしたらチョコレートの商品開発ができるようになるかの質問状を送った。親切にも、ちゃんと返事が来ました。“勉強して大学に行って商品開発の勉強をしてください”。
もちろん、高校3年間しっかり勉学に励み、めざす関西大学(商学部/商品開発のゼミあり)に入学、志望するゼミにも入れました。同級生2人を誘ってチョコ班を結成。毎日毎日チョコの食べまくり。卒論は「ポッキーとフラン」。めでたくチョコを専門分野として卒業。
ところが、就職で大きな躓きが。グリコに志望動機として7年前の質問状のことも書いていたというのに、エントリーシートではねられてしまった。軒並み大手メーカーを失敗。傷心のまま地元に帰ってOLに。

それでも、このくらいでへこたれることはなかった。3年間貯金をして、めげずに東京へ。なんのあてもなく出てきたわけで、無謀といえば無謀。必至の思いでショコラトリーの門を叩きつづけたのです。
拾ってくれたのが「デカダンス ドュ ショコラ」。そこにいたのが、ご主人の長谷川さん。
最初は販売だったけど、夜間の製菓学校の半年コースを受講して、晴れて製造へ。苦節10年、ようやくショコラティエールの仲間入りを果たしたのでした。
その後は、トントン拍子。金沢の名店「サンニコラ」の2号店立ち上げに呼ばれ(東京へ出る前に面接を受けに行った経緯あり)て、1年半。東京へ戻って「和光」でも修業。ふたたび「デカダンス ドュ ショコラ」に呼ばれて、ステファン・ヴューの下、ショコラ部門のチーフとして3年。「ジャンポールエヴァン」でケーキ作りも経験して、大阪の「キャギ ド レーヴ」へ。
ついに、2013年12月、ご主人と「パティスリー オーディネール」オープン。自分の想いを伝えるチョコレート作りが始まったのです。



●『ボンボンショコラ7種/冬季限定』 (写真右上から時計回りに)
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◎『アメール』(カカオニブのトッピング)  2.7×2.7cm 厚み1.3cmほど。
グアナラを使ったガナッシュ。
カカオ70%なので当然粉っぽさは少しありますが、抵抗なく苦みを美味しい苦みとして受け入れさせ、アメール amerと名乗っただけ、苦みの楽しみを広げてくれています。アメールの力強さと優しさの両方が味わえるのですから。
ニブの食感もいいアクセントだし、香りの余韻が長く、あぁいい物を食べた喜びが口にいつまでも残ります。

◎『加賀』(金箔) 
実由起さんの実家のある金沢で有名な「丸八製茶場」の加賀棒茶(茎茶のほうじ茶)を、生クリームにアンフュゼしてグアナララクテと合わせたもの。
実際に温かなお茶をいただいたのですが、元々、渋みが弱くほっとする優しいほうじ茶でした。
日常の味わいが、気品のある甘い夢に変身。
“これでもか”にしないところが、彼女らしい奥床しさですね。

◎『メープル』(ほんのり赤)  径3cm  高さ1.6cmほど。
ほんのり好みは色使いにも反映。メープルの紅葉を色粉を使って表現しているのですが、分からないほどにほんのり。
フィアンティーヌのミルクチョコ、ヘーゼルのプラリネ和えとメープルシロップカラメルの組み合わせ。
ふふっ、美味しいカラメル。メープル本来の香りとカラメル香が一緒になって広がってきます。
フィヤンティーヌの食感は控えめで、チョコレートのなめらかさの邪魔にならない程度。繊細な使い方です。

◎『パンプキンカフェ』(ほんのり黄がかった茶) 
えーっ、カボチャにコーヒーとは! 
コーヒーを合わせたのは、「サンニコラ」のシェフのアイデアだそうです。
カボチャとミルクチョコと生クリームを合わせたガナッシュ。隠し味がコーヒーとひそかに蜂蜜。
カボチャのほんのりとした穏やかな風味が生きていることにもびっくり、そしてコーヒーの引き締め。見事ですね。

画像◎『フランボワーズ』(フリーズドライのフランボワーズの飾り) 
ミッシェルクルイゼルの、優しさが持ち味の61%のビターと、フランボワーズピュレを使ったガナッシュ。フランボワーズのパートドフリュイをほんの少し重ねています。
定番の組み合わせだけに、安定感のある美味しさ。甘酸っぱいフランボワーズの香りが活きていて、華やかですね。

◎『ライムフレーズ』(真っ赤なハート) 
ライムカラメルと、フレッシュ苺とホワイトチョコのガナッシュの組み合わせ。
苺がメインでライムがシャープなエッジを利かせる役割。
豊かな苺の美味しさに素晴らしいキレ味が加わって、食べる者を驚かせつつ納得させてしまう味わい。素晴らしいです。

◎『ミエル』(うさぎ)  
うさちゃん、耳からパクッ。
百花蜜を使っているそうですが、比較的大人しい香りのものをチョイスしていますね。
ミルクチョコのガナッシュの香りが少し濃厚になっているのかなといったレベルの香り方ですが、まろやかさが格別。
優しい甘さが、とろりととろける…、いいですね。



●『トリュフ 3種』
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えっ、ウソ、うそっだあっ ?!  3個入りで250円って…。

1粒250円とか300円がざらにある世界ですからね。緊張を強いられながら、震える心で口へ運ぶことも。

1粒80円ほどで気楽に味わえるのが何より。なかなか手が出せない人も親しみをもって食べられますね。ほっ。
じつは、前回6月下旬に訪問した時からずーっと気になっていたのです。

実由起さんは「自分がチョコレートで感動を味わったので、みなさんにもぜひ感動してもらいたくって、手に取りやすい価格で…」と言います。
店名の「Ordinaire オーディネール」 = 通常の、いつもの、普段の という意味、そのまんまを地で行く価格設定です。嬉しすぎるっ!

◎『トリュフ オーディネール』(3個入り) (写真右) 径2.4~2.6cm 高さ2cmほど。
ビターチョコとミルクチョコをブレンドしたガナッシュに薄くコーティングして、カカオパウダー。
生クリームが多めなのかとても口溶けが良く、カシャッとカバーが割れた次の瞬間にはもう口一杯にガナッシュが溶け広がっている素早さ。
ミルクチョコで優しさが加わっているのですが、チョコ感は強いですね。香り、苦みを活かしつつ、食べやすい美味しさの領域にうまく引き込んでいます。ふうぅいいなあ。

◎『トリュフ シャンパン』(3個入り)  (写真中央) 径2.6cm 高さ1.9cmほど。
実由起さん曰く「シャンパンをそのまま使うと香らない上に生臭さが出るんです」。
ということで“モエ エ シャンドン”の蒸留酒を使って香り付け。
粉糖の甘さを感じたその刹那、ゆるやかに溶けていくミルクチョコガナッシュから品良くふわりと香ってきます。
アルコールを使ったインパクトに頼らず、ほんのりとした酔い心地へと誘ってくれています。上品ですね。

◎『トリュフ トンカ』(3個入り)  (写真左) 径1.7cm 長さ3.2cmほど。
ジバララクテのガナッシュは、ベネズエラ産のトンカ豆風味。
トンカは隠し味的な使い方のものに出会うことが多いのですが、これははっきり桜の香りがします。ふぅん、いい香り。
彼女の素材の使い方としても異例なほど明確に分からせてくれます。
カバーのカカオパウダーでチョコレートのビター感を瞬間楽しみつつ、ふわっと香りが豊かでガナッシュも豊かに感じます。しかも、後口スッキリ。キレのいい味わいです。





●『ショコラオランジュ』  径6.6cm 厚み1.2cmほど。
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一口、齧ると …… わぉ、ジューシー! 
活き活きした果実の魅力に溢れています。

オランジュはほとんどが乾燥焼きで水分を失い、飴のような状態になっているものがほとんどですしね。
皮の部分のほろ苦も活きているし、ノワールのチョコも香りがいいし、オレンジの果汁と口中調理で一段と美味しくなります。

チョコと水気のあるものを合わせるのはちょっとした冒険だと思うのですが、吉と出ましたね。お見事です。





ショコラティエールの実由起さんのチョコレート、人柄が如実に表れているようなチョコレートと云えるかもしれません。飄々とニコニコ振る舞っている実由起さんのまわりを、可憐で優しい空気がほわっと包んでくれているよう。会う人は心和み、親しみをもっておしゃべりをしたくなるでしょうね。
大学のゼミで、マーケティングでは必須というべき皮肉な目も養われただろうし、製造のスタートが遅かったため修業中に辛い体験も多かっただろうと思います。
でも、『メルティーキッス』の感動を忘れない純な心を裡に秘め、一人でも多くの人に感動を分ちたいという、前向きでまっすぐな意志をずっと持ちつづけてきた芯の強い人です。
自分が、自分が、と、どんどん強気で押し出してくるタイプではないのですが、チョコ好きの気持ちは溢れ出ています。
それでいて、チョコの味わいは控えめ。とても明確な味覚の軸、繊細な感受性をお持ちなのでしょう。このあたりのバランスが実由起さんの魅力ではないでしょうか。


秋も深まり、チョコが恋しい季節になりました。
一粒のボンボンショコラ、トリュフ、それぞれのお気に入りを見つけてみてはいかがでしょう。



●『ボンボンショコラ7種/冬季限定』@180円  『トリュフオーディネール』250円 『トリュフシャンパン』250円 『トリュフトンカ』250円  『ショコラオランジュ』価格失念    (※内税)

●「パティスリーオーディネール」
  大阪市西区南堀江2-4-16  TEL06-6541-4747  定休日/木曜  営業時間/11:00~20:00