エルベラン(6) 『シュトーレン』(試作品)

いよいよ残すところ一ヵ月、師走となりました。待ちに待った、シュトーレンの季節のはじまり はじまり!
毎年、この時季にいろいろなお店のシュトーレンをいただいております。もう、四半世紀前からの我が家の恒例行事。12月は「シュトーレン日和」なのです。
ブログ以前のものはメモしかありませんが、2005年から始めたブログ「パイ日和おまけ」では毎年紹介してきました。2011年には「パイ日和」で、これまで食べてきたものを一覧できるようにシュトーレンの特集を組みました。

が、その後も年々増え続けているので、おさらいの意味も込めて書き出してみましょう。
ドイツ、フランスほぼ半々。パン屋さんとケーキ屋さんもほぼ半々。それぞれ価格の違いも含めて個性的な味わいでしたね。

2005年  ビゴの店、ポール
2006年  セセシオン
2007年  ラピエールブランシュ、ベッカライビオブロート、オーベル
2008年  コムシノワ、グロスオーフェン、ズーセスヴェゲトゥス、カヤヌマ
2009年  ジャック、ビゴの店
2010年  シュターン、シュラッテンバッハ、オタンプルデュグゥ
2011年  シャルルフレーデル、オンコーアンマタン、レーゲンボーゲン、大地堂
       「パイ日和」特集8 にて、20撰(これまでの総括)
2012年  フラウピルツ、ハーバックストゥーベ、オンコーアンマタン
2013年  デリチュース(非売品)、フジウ、オンコーアンマタン
2014年  エルベラン、アルチザナル、こしもと、デリチュース

      *  *  *  *  *


さぁて、今年のしょっぱなは、私たちの地元のパティスリー「エルベラン」(兵庫県西宮市)さんです。
創業半世紀を超える老舗のこちらでは、初めてシュトーレンを販売されるのではないでしょうか。その試作品を2代目シェフの柿田衛二さんからいただきました。
ちなみに、今年は10本か20本ぐらいしか作らない予定とのことですので、もうなくなっているかもしれませんよ。1年間じーっと待つのもまた愉し、ということで。


●『シュトーレン』  長さ23cm 下辺4.7cm 上辺3.3cm 高さ7cm 530gほど。
画像
シュトーレンを作るにあたって、人気店のルセットを漁るのではなく、まずドイツでは元々どうだったのか、フランスでの位置づけなどを丹念に調べ、そして自分だったらどういうシュトーレンにしたいのかをじっくり熟考しています。
結果、“お菓子屋しか作らない、いや、作れないシュトーレンを”との想いが結晶したものと云っていいでしょう。

じつは昨年、シュトーレン作りを予告されていたのです。
というのは衛二さんが、同じ西宮のブーランジュリー「オンコーアンマタン」さん(当ブログの常連)の『シュトーレン』の美味しさにライバル心を滾らせたからなのでした。三人で会う度に“美味しいねぇ”と持ち切りだったのです。

それから、1年。
満を持した自信作が出来上がったのです。試作品を携えて颯爽と出てきた時の衛二さん頬の弛み具合ときたら…、あっはは~。
その笑いは、一口食べた時に理解できただけでなく、私たちも同じ喜びでニッコリ笑うしかなかったのです。ニッコリを通り越して、だらしなく歓んでしまっているのでした。

ふぅぅむ… 美味しいとしか言いようがないですねぇ。
書き手泣かせ。何を言っても平凡に感じられてしまう。どうしても言葉がこのシュトーレンの美味しさに追いつきそうもない。嗚呼。
特筆すべきは、行くところまで行った、あくどいまでに美味しいというのに上品さはけっして失わない、そのこと。
一口食べると、もっと欲しくなるのですが、余りに美味しすぎてパクパク食べてしまうのはもったいない。毎朝、一切れずつ心して大事にいただいています。



画像はてさて。感動の報告はこのくらいにして、中身についてお知らせしましょう。
分析的な書き方にすると全体としてのまとまりの力が減じるようで、あまり気が進みませんが、まァ取りあえず。

ブリオッシュ生地にマジパンを、シェフ曰く“あほほど”入れ、バターもたっぷり。
粉100に対してローマジパン50、カルピスバター100。スパイスはパンデピス用のものを利用、オールスパイスとシナモン1:1。
フルーツ類は枝ごと収穫されるモハーベのレーズンはオレンジピール、サワーチェリーとともに辛口の白ワインに半年ほど漬け込んでいます。サルタナレーズンはラム酒、これはフレッシュ感を大切にしたいからと、炊いた上で漬け込み1週間ほどでふっくらに。レモンピールはシロップで炊く。ピーカンナッツは、ローストせずに生のまま油脂の香りを活かして。
そして、満月のようなまん丸の可愛いマジパン棒。これにはパッションフルーツのジュースとレモンのゼストを加えています。
ほぼ半年がかりの徹底したこだわりを見せています。

形は定番の“おくるみ”ではなく、こちらの『ウィークエンド』(これまた絶品)で使われている細長い跳び箱型。焦がしバターをたっぷり、グラニュー糖をまぶし、その上から粉糖で覆っています。



画像ともかく、バターとマジパンの贅沢な味わいに圧倒されます。比率から言って、相当にくどいものになるはず。

ところが、なのです。少しもくどさがなく、滋味豊か、というか慈愛に満ちた味わいというか、クリスマスにふさわしい幸せを実感する味わい。
ここに至っているのは質のいいマジパンにカルピスバターの気品の高さ。
そして、さまざまに加えられている香りの具材が競争することなく、助け合って美しいハーモニーを描き出していることが大きいのです。
スパイスの目立たない深み。ピール類のキレの良さ、パッションの清潔感、マジパンのアーモンドとピーカンナッツの豊かさ。素晴らしい交響。
具材が多いというのに生地感もちゃんとあって、ベラベッカ風に傾いていないのです。

なかでも、マジパン棒のパッションのアイデアに意表を突かれましたねぇ。
単独で食べるというはしたないことをしてみると、それはそれで美味しいものですが、シュトーレンとしては異質な味わいなのです。
にも関わらず、全体に溶け合った時の働きの美しいこと。香りは清潔で気高い幻の世界へと誘ってくれるし、鋭い酸味はくどいはずの配合をすっきり味わえる美味しさに導いているのです。

いやはやいやはや、参りましたぁ。つくづくお見事です。
毎朝一切れ食べて至福の境地を味わう幸せよ! 今年は素敵なクリスマスが訪れそう。




衛二さんの新商品開発の優れている点は、最終的な美味しさもさることながら、有名シェフの商品アイデアを借りてアレンジするというような小手先の開発をしないこと。
いつも素材の美味しさや生地そのもののあり方に立ち戻った、深い地点からの発想であること。
だから、出来上がったものは、“こんなの食べたことない”というオリジナリティに溢れているのです。
このシュトーレンにしても1年掛かり。時間を掛け、腰を据えての取り組み。自分が作りたいものの本質を見極め、最終着地点をしっかりと見据えた味わいの微調整。食べていて苦労の跡が見えないのも素晴らしいですね。



●『シュトーレン』2500円(4.72円/g)   (※内税)

●「エルベラン」
  兵庫県西宮市相生町7-12  TEL0120-440-380  定休日/火曜・水曜不定 営業時間/8:00~18:30