J-P.エヴァン(2) 『ピラミッド』『ロンシャンショコラノワール』

言わずと知れた名ショコラティエ、エヴァン様のケーキ。
以前は、とても高価なケーキと思っていましたが、周りが上がってきたのでそうでもなくなってきましたね。お客さんもまばら。ということで、このところ食指が動くようになったという状況。
元々、「素材の持ち味をストレートに出しながら繊細さを失わない」という個性は、私たちの最も好むところですからね。


●『ピラミッド』  底辺9cm 高さ6.3cm 厚み2.5cmほど。
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黄色いスポンジにバタークリームを挟んだピラミッドは、古くからよく馴染んだお菓子ですね。

さて。こちらはもちろん、チョコレート。

ピスタチオのダイス入りチョコのビスキュイとビターガナッシュに置き換えられ、ずいぶんと大人のイメージ。
グラッサージュのねっとりとした食感も隅に置けない、いい味を出しています。

素直に美味しいタイプのチョコで、とくに変わった個性を発揮しているというのではないのですが、使われているチョコのレベルが高いのでしょうね。
とても深く濃い味わいがあり、つい深く息を吸って薫りを満喫しようとしている自分に気が付くでしょう。
コニャックの薫り(アルコール感はあり)も出しゃばらない節度があります。

生地とガナッシュはそれぞれのテクスチャーで存在感を示しながら、出会った直後に一体感を示して溶け合って行くのです。
口中調理という言葉がありますが、まさにこの溶け合って行く過程の美味しさときたら、もう! 
ピスタチオのコリッとした小さな食感が単調さを防いでくれるのもいいですね。

まさに錬磨された味わい、さすがは名匠です。




●『ロンシャン ショコラノワール』 径5.5cm 高さ4.8cmほど。
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最近の若手のケーキは複雑怪奇なものが増えていますが、ベテランの名品がいかに削ぎ落とされたシンプルな佇まいであるか、気にもとめていないのかな、といぶかしく思うほど。

センターにメレンゲ、それを包むようにミルクチョコベースのバタークリームのムース。
全体に、アーモンドのダイスを散らしてグラッサージュ。

では、口へ運びましょう …… あぁ美味しいなぁ。ふうぅ。

このケーキの素晴らしさは、比較的濃厚な味わいであるにもかかわらず、どこまでも軽快であるところ。

その第一の要因は、メレンゲ。
それはまるで“粉雪のよう”。
一度焼いたメレンゲを裏ごししてから押し固めたような印象です。粉糖を食べるような柔らかな甘さ。
和菓子にも和三盆を押し固めたお菓子がありますが、柔らかな味わいは近いけれど、固く、溶けるのに時間を要する点が違います。このメレンゲは信じられないくらいに軽く、瞬時に溶けるのです。唾液で口が重くなる暇すらないのです。

第二は、バタークリームのムース。
ガナッシュにメレンゲを加えるムースはエヴァンの専売特許のようなものですが、これもその応用でしょう。
泡のせいで軽いというだけでなく、水気を感じないバタークリームだからこその、乾いていて滑らかという特長が最大限に活かされているのです。

グラッサージュ部分のビターな刺激、ネットリとコリコリの食感のプラスまで含めて、完成度の高さは多くの巨匠からすら隔絶しているほど。
今さらながら感心しきり。お見事という言葉すら浮薄で使うべきではないでしょう。歴史に残る名品です。



エヴァンさん、ありがとう。久しぶりに、気持ちを揺さぶられました。



●『ピラミッド』572円  『ロンシャンショコラノワール』624円  (※外税)

●「ジャン=ポール エヴァン J-P.HEVIN」
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