エメラ(5)『アッコンジュ』『ミュールアールグレイ』『シュロー』『ルミック』『フレジェ』『ワッフル

奈良市、近鉄奈良線・富雄液の南3分ほどのところにある「パティスリー&ショコラトリー エメラ」さん。藤原尚樹さんがオーナーシェフ。
ショーケースに並ぶケーキがどれもこれも、これほどのレベルで傑作揃いというお店は、おそらく全国を探し歩いてもそうそうあるものではありません。あまり動じない私たち二人が、夢中にさせられているお店です。


●『アッコンジュ』   径6cm 高さ3.7cmほど。
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ほぅ! あまりの美しさにほれぼれ。

じっと眺めていると、自分の姿が映り込んでいることに気が付くでしょう。まさに、鏡面仕上げ。
グラッサージュノワールなのですが、色粉でやや赤っぽいイメージ。金箔キラリ。

極限のトロトロ感の内側には、シュトロイゼルショコラをロポクープにかけて細かく砕いてから押し固めたものが敷かれ、ヴァローナのカライブ(66%)を使ったビターチョコムース(ボンブベース)。
そのセンターにビスキュイショコラサンファリーヌ、カシスのクリーム 、イチゴとフランボワーズのわずかに果肉を残したクーリの3段重ねが射込まれています。

では、いただきましょう。
いつものことながら、すべてのパーツが微に入り細に入りよく出来ているのですが……、
ともかく口溶けが素晴らしい。
クーベルチュールはカカオ分70%も試したけれど、硬くなるということで断念。おかげで実現した口溶けにう~っとり。

チョコレートの風味にも打ちのめされます。グラッサージュ、ムース、サンファリーヌ、シュトロイゼル。
食感を異にし、風味も違えながら、さまざまな角度から一心にチョコの見えない頂点を目指して押し寄せて来るのです。
そして射込んだ赤い実のフルーツの酸っぱさがただの点描のアクセントにとどまらず、異なる味わい、異なる濃度で対抗軸を作り出しているのです。

繊細さを追求しながら力強い味わいで圧倒されます。もぅメロメロです。お見事でございました。




●『ミュールアールグレイ』   径6cm 高さ3.7cmほど。
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このムースは、『アッコンジュ』とセットで食べて欲しいですね。

単独だと、控えめな大人しい味わい(まァそれも魅力ですが)ということしか分からないかもしれません、ミュール(ブラックベリー)は元々味の弱いものですからね。

ほぼ同一の構成。
グラッサージュに覆われてミルクチョコ(カルマ社のクレア)とミュールのムース。
その中にビスキュイショコラサンファリーヌ、無糖のアールグレイのクリーム、ミュールのクーリ(少しペパン入り)が射込まれています。
底生地はシュトロイゼルではなく、ビスキュイショコラ。ミュールのシロップをポンシュで強化しています。
こちらの飾りは、銀箔。

ミュールの個性に合わせて、味わいや食感が調整されています。
ミルクチョコ・ミュールムースの柔らかな味わいの中から香り出すのが、アールグレイのベルガモット香。静かに滲み入るように香ります。精神を沈静化するような不思議な力があります。
その刹那、流れ出すのがミュールのクーリ。
グラッサージュやムースの甘さの中では無味に感じられ程の淡さ。その清らかさは青山奥深く分け入った先に湧き出る岩清水のよう。ふぅぅ素晴らしいですね。


『アッコンジュ』はレンガ色、『ミュールアールグレイ』はミュールの紫。
いずれも沈んだ色合いの珍しい取り合わせで、一見双子のような印象を抱きましたが、じつは遊び心のある仕掛け、だったのでは? 
だって、藤原シェフ、いろいろ詳しく説明してくれるというのに、ことこのケーキに関しては「この2つをセットで食べて比較してほしい」なんてことを一言も言わなかったのですから。

シェフ、以下が私たちの謎解きです。いかがでしょうか、ふふっ。
トップの飾りが、金と銀で対比されているように、『アッコンジュ』とは性格が正反対。陰と陽、光と翳の関係になっているのです。
しかも特筆すべきは、パキッとした単純明快な対比ではないところ。光も太陽のような明るさよりもどちらかというと“月の光”かも、と思わせる繊細さを感じるのです。
食べていて静けさに引き込まれて行くような魅力は、対比した時により明確に分かりますから、ぜひ2つセットでどうぞ。ぜひ!  

面白い体験でした。私たちはより敬意を込めて、『金』『銀』とジャーゴンで話しています。
お菓子って感じ方・愉しみ方は、人それぞれ。このプチガトーも食べ手によって捉え方が変わるのではないでしょうか。貴方なりの糸口を見つけてみてはいかがでしょう。
へっ? もしかして、『銅』も何処かに隠れていたりして…… ひゃぁ、シェフ !?




●『シュロー』  径6cm 高さ4.5cmほど。
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今冬からの新作。

こちらのサービス担当に濱田さんというとても熱心で、若いのに“食”に通じている方がいます。
その彼女が、東京のフレンチレストラン「ティルプス」で食べたデザートの感想からこのケーキが誕生しました。

デザートは“アカシヤ蜂蜜のソルベとニワトコ(エルダーフラワー)のブリュレ”。小さな白い花も散らしてあったそうです。
話を聞いた藤原シェフがさっそくシュロー(ニワトコ)シロップを取り寄せ、“なるほど、いいね!”と気に入ってしまったところから、開発スタート。

合わせたのが、苺。春に咲く花の季節に採れるものなら合うはず、という目論見。

ニワトコがマスカットと蜂蜜のような香りであるのにたいして、苺は同じ蜂蜜の香りを含んでいて苺特有の香りも強く香ります。
うん、ピタリと嵌りましたね。スタッフの意見を取り入れて創作する柔軟な姿勢に感心しました。

カスタードにニワトコのシロップを加えクレームシャンティを加えただけのシンプルなムースの中に、ビスキュイジョコンド、フレーズデボワと苺のムース、フレーズデボワのジュレが射込まれています。
底生地はジョコンド。ホワイトチョコで周りをぐるっと。

春らしい華やかさに浮き浮きしてしまいます。ニワトコの香りは蜂蜜の豊満さを持ちながら、どこか清々しく軽やか。苺がより豊かなふくらみを加え、淡い酸味でアクセントを与えています。
より強い酸味のフレーズデボワがほんの少しエッジを利かしてくれているのもいいな。

極論すれば、香りのケーキと云えるでしょう。驚くほど優しく、甘やかで切ない花の香りをそっと楽しみましょう。
春の扉を開けてしまったかのような気持ちになります。




●『ルミック』  径7cm 高さ3.5cmほど。
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飾りのマーガレット、可憐ですね。

それもそのはず、藤原シェフのお嬢ちゃん(2歳にして大のチョコレート好き)、くるみちゃんの名前を並べ替えたネーミングのケーキです。
だからといって、クルミが使われている訳ではありませんが、ナッツ風味のお菓子です。

ドーム状(なかが柔らかいためセルクルだと中心がやや凹む)の底生地はビスキュイジョコンド、ピスタチオのバヴァロワ、その下にはカラメリゼしたアーモンドダイスを貼付けています。
バヴァロワの中にはジョコンド、レ・ダマンド(アーモンドミルク)のムース、アプリコットのクーリ(ヴァニラビーンズ入り)が射込まれています。

シェフが修業のためベルギーへ渡った時のこと。はじめてレ・ダマンドを食べて、苦手意識をもったとのこと。
ところがよく使う素材で、次第に慣れてだんだん好きになったのだそうです。

ナイフを入れてみましょう…… おぉ、アプリコットのクーリがとろ~り。
流れ出してきました。ちょっと官能的ともいえるほど。

それらを一緒に口へ運ぶと、わぉ! 杏仁香(ビター香)だぁ。

こんなに強いのは珍しいのではないでしょうか。全体を覆い尽くすほどに香っています。大~好きな香りに、陶~然。
その中からピスタチオのねっとりとした香りがじわじわと競り上がってきます。
ピスタチオの濃厚な油脂感をスッキリとした食後感にしているのが、アプリコット。キリッとした酸味が小気味いいほどに力強く駆け抜けて行きます。目覚ましいとはこのことでしょうね。

バヴァロワというと重いイメージがありますが、口溶けの素早さがあり、印象の鮮やかなケーキです。お見事!




●『フレジェ』  2.8×7.5cm 高さ5cmほど。
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シェフ曰く「フレジェは、語りたいケーキです」。

ん? フレジェで語るというと、苺についてかベルギー時代のことのどちらかかなぁと想像していたら、苺でありました。ちなみにベルギーでは、苺は野菜みたいなのでクリームがとても甘いのだそうです。

フランス菓子の定番ですが、こちらの『フレジェ』はシェフと農家の濃密なお付き合いから生まれたケーキなのです。
元々、地産地消でありたいとの思いもあって、農家さんとの付き合いを望んでいたところ、いい出会いがあった様子。現在の契約農家、萩原さんは代々の苺農家。

今日はどんなのが来るかなとワクワクするのだそうです。ビジュアルを大切にしているシェフですが、素材の味を優先するため、粒が揃わないところもそれがまた魅力となり、その日その日で変わるビジュアルを受け入れているようです。
萩原さんも、今日はいいのが採れましたよとか、今日は揃わなかったからおまけねとか、工業製品にはない自然素材の不確かさをお互い楽しんでいる様子。
プロとは、表面上の付き合いで終わるのではなくて、つまるところその人を信頼できるかどうか、だと日頃思っている私は、お二人のやり取りを仄聞して、プロ同士なんだなぁと感じました。素材へのまっすぐな気持ちも気に入ったのでした。

萩原さんのところで作られる“紅ほっぺ”は酸味もあるし断面まで赤いのでフレジェ向きと直感したとのこと。完熟の朝採りが入るので、粒の大きさは揃わないけれど大歓迎。たしかに、大きさバラバラですね。もちろん苺が入らない時は作らないそうですよ。
生の美味しさを味わってもらうために、軽いムースリーヌを合わせています。カスタードとバターにイタメレを合わせただけのバタークリーム。とても口溶けが速いですね。
生地はもちろんジョコンド(マルコナ種)。フレーズデボワのシロップをアンビベしています。
優しくフレッシュで爽やかな印象ですが、ただ“爽やか”で終わらないのは、しっかりしたジョコンドの旨味があるからでしょうね。生地好きシェフの面目躍如といったところです。


フレジェとは、基本的にはジェノワーズにキルシュ入りのシロップをアンビべし、ムースリーヌ(またはクレームオブール)と苺を挟んだケーキです。
こちらではほとんどお酒を使わない(理由は前回のブログで詳細)ことから、定番ともいうべきキルシュなし。これがあるかどうかでかなり印象は変わりますね。だからこそ、今のエメラさんを体現しているケーキと云えるでしょう。

うんうん、すべてが主役の苺をひときわ輝かせるための布陣。
狙い通り、生の苺の美味しさが活きた『フレジェ』。苺ありきの『フレジェ』。
いかにも藤原さんらしい、エメラ流フレジェ。軽やかで春らしさが満開!




●『ワッフル・ド・リエージュ』   8.3×8.3cm 厚み3.2cmほど。
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リエージュ風のワッフル。

ベルギーで修業した藤原シェフにとってワッフルはどうしても作りたいアイテム。
昨夏お邪魔した時に、ちょうどワッフルの機械の業者さんが来ていたのでした。

現地ではパティスリーでは扱っていなくて、観光名所の屋台で焼かれているのが普通だそうです。そうそう、スーパーで袋入りもあるそうです。

だから向こうで習ったことがなく、今回、ブリュッセルで働いている人にルセットを聞いて作り始めたそうです。
ちなみにワッフルには薄い煎餅状のものと、醗酵生地のふっくらしたものがあって、シェフのお気に入りは醗酵生地の方。
修業中は、生活の一部といっても過言ではないほど親しんだものだそうです。

ベルギーの醗酵バターと日本の醗酵バター、ベルギーのあられ糖を使っています。
表面はカリッサクッとしつつ、ふっくらと包み込むような食感。軽いイーストの風味とバターの香り。ミルクっぽい香りも強いですね。時折、あられ糖がチャリチャリいいリズムを与えてくれます。

なんでもないお菓子ですが、こういう素朴な美味しさこそ、美味しさの原点。いいですねぇ。
レジ横の焼きっぱなしコーナーにあるので、目に入ったらつい買っちゃうんだろうなぁ。そんな可愛いヤツですね。




プチガトーの未食はあと数点のところまで食べ進めたのですが、こうなると逆に季節ごとの商品を食べるために通わなければならなくなります。それほど1品1品の完成度が高く、毎回打ちのめされているのです。はぁ。
隅々まで神経が行き届いているケーキで水準を保つのは至難の業。快い緊張感、素晴らしいですね。



●『アッコンジュ』470円  『ミュールアールグレイ』470円  『シュロー』480円  『ルミック』460円  『フレジェ』490円  『ワッフル・ド・リエージュ』220円    (※外税)

●「パティスリー&ショコラトリー エメラ」
  奈良市富雄元町2-6-40  TEL0742-44-6006  定休日/水曜  営業時間/11:00~20:00(日祝~19:00)

※ブログ「パイ日和」では、こちらのお店の焼菓子のパイをご紹介しています。