パティスリーアキト AKITO(4)『モンブラン』『エサンス』
神戸、阪神電鉄・元町駅から西へ2、3分ほどのところにある「パティスリー AKITO」さん。優美なケーキが魅力を振りまいています。
田中哲人シェフは、ケーキの構成の各部分がどのような時間差で味蕾に届くかを細かく分析した上で、最終的に組み立てを完成させる、緻密さの持ち主。繊細極まりないケーキをさりげなく美味しいと感じさせる隠れた追究。
本日も、じっくりとその技を堪能することとしましょう。
●『モンブラン』 径7.5cm 高さ5.6cm 130gほど。

2015年ヴァージョンのモンブラン。
昨年はマロンクリームにミルクジャムを加えた、濃厚でやや重めの味わいのものにしていたそうです。
今秋は一転して、軽めの方向へシフト。
底生地はビスキュイノワ、薄くミルクジャムを塗って、クレームトンカ(中に丹波産の渋皮付き甘露煮の栗の小さなダイス)。
栗のクリームは、アングレーズベースにチャレンジしてみたとのこと。
アルディジョワの栗のペースト(そういえば、この名前の栗のお菓子を見た覚えがありますね)だそうです。それにアングレーズ、バター、ラム酒という構成。
表面はモンブランらしく粉糖で仕上げ。
なんと! お酒を使っているケーキは「AKITO」では、唯一これだけ(シェフはお酒弱いそうですよ)。
クレームトンカの方が内側にありますが、味わいとしては先に到達して、その後に栗のクリーム。ほぅ栗との相性はとてもいいんですねぇ。
このマロンクリーム、単独で味わうとかなり甘く、ラム酒も意外と利いているのです。
が、クレームトンカ(トンカ豆は少しシナモンが加わったヴァニラといったような香り。田中シェフはヴァニラでは少しありきたりと思える時に、ちょっとした変化球のつもりで使うとのこと)と一体となって、淡く優しい味わいに感じられるのです。
トンカに覆われて中から栗の風味が沸き出してくるといった趣き。
ビスキュイが分厚く、しっかりしているので、口溶けはいいのですが、最後の味わいとして感じられる部分。この生地だけで商品化してくれないかな、というくらいに美味しい生地。
素晴らしい締めくくりです。わぁ美味しかった!
話はここで終わりません。
ソフトで食べやすい味わいですが、それだけで満足しないのが田中さんらしいところ。
クレームトンカのなかの渋皮煮、ビスキュイのなかにも渋つながりでクルミの小さなダイス。食感のアクセントという役割もありますが、甘ったるさだけで終わりたくないための目配せのような…。
いや、そう書くと誤解を招きそうです。味わいの印象としては渋くはないのですが、微かにトーンを抑えるためのもの、と云ったほうがより近いかもしれません。この微妙さ繊細さが、AKITOさんの美味しさへと繋がっているような気がしてならないのです。
おっと、もとい。
此のところ、立て続けにモンブランをいただきましたが、シェフによって何に重点をおくかアプローチが異なっていて、人それぞれ。面白い体験でした。いずれも名品揃い。
こちらのモンブランは、2015年秋を締めくくる“おおトリ”的存在でした。
●『エサンス』 8.3×3.4cm 高さ5.5cmほど。
2015年の春から、「モンプリュ」の林シェフの発案で、神戸在住の7人のシェフが毎回お題を決めて競作する“オリジン コウベ ORIGINE KOBE”というグループを発足したそうです。
こういう活動は自治体主導が多いのですが、シェフ自ら立ち上げて動くというのは頼もしいですね。
今回の秋冬のコレクションは、お題がエサンス(Essence)。素材はヴァニラ、柑橘、ノワゼット。7人のシェフが同じケーキ名、同じ素材構成で同時に発売。
ふふっ、落語の三題噺のようで面白い企画です。実力派のシェフたちばかりですが、さらになお創作意欲を磨きつづけようという姿勢が素晴らしいですね。
* * * *

さて、田中シェフの『エサンス』。
シェフ自ら、「自信作です」ときっぱり。
おやっ、ほかのシェフのほとんどがヴァニラを副材料として使っているのに対して、どーんとメインに持ってきています。
パティシエにとって、あまりにも身近な存在のヴァニラだけに、他の2つのものと同等に表現するのは意外と難しいのではないでしょうか。
底生地がヘーゼルのパンドジェンヌ、メインがタヒチ産ヴァニラ風味のブール ド ムース。
センターに射込んでいるのが、下から薄くこのケーキのためのオレンジのピール入りジャム、ヘーゼルのクリーム、ヘーゼルの皮付きビスキュイ、オレンジジャム、マダガスカル産ヴァニラのクレームブリュレ(違う産地のヴァニラを使うのは香りの幅を持たせるためですかね)という5層構造。
全体では、7層の構成になっています。
表面はオレンジのピストレ仕上げ。トップにヘーゼルのカラメリゼとオレンジのゼスト。
うーむ、ここでもシェフの時間差の技が冴え渡っています。
口溶けのいいムースで、一挙にヴァニラの世界に引き込まれます。
その甘く優しい世界の底から、オレンジジャムのキリッとした酸味、ピールのほろ苦さややツンとした香りが軽い刺激を送り込んできます。
そして、ゆるやかにヘーゼルの油脂が溶け出し最後に香り、生地とともに最後まで印象が残るのです。ふうぅぅ。
時間差ですべてを意識させつつ、不思議と一体感も。ヴァニラもオレンジも持続時間が長いというか、印象が強いというか。一つに重なり合った響きの良さに、あらためてうっとり。
うーん、やはりヴァニラには夢を魅させる力がありますね。
ケーキで2つの素材の対比は当然なのですが、3つになった途端に難しさが急激に拡大します。
2点の素材を結ぶ線が1本だったものが、3本(トライアングル)に増えるのですからね。
しかも素材間に主従関係を持たせずにそれぞれが目立つというのは至難の業。
しかも、なのです。それぞれのパーツが洗練されていて、クラシックな気品すら感じられます。はぁ。
名品ですね。
自信作とおっしゃったのも頷けます、いやはや恐れ入りました。
新店ではありますが、キャリアも長くベテランなのに、シェフの口から2回も“チャレンジ”という言葉が。
今回ご紹介したケーキでいえば、『モンブラン』のマロンクリームをアングレースベースにしたことや、『エサンス』のブールドムースも普段あまり作らないムースだそうです。
長年パティシエをやっていると、手の内に入ったやり方でこなして行くことが、ある意味肝要ではないでしょうか。そこに安住することなく、内なるニーズ、表現したいという思いをつねに大切にしておられるのでしょう。
そういった想いからほとばしるようにして作り出したお菓子。貴方にも実際に食べて確かめていただきたいなぁ。
●『モンブラン』500円 『エサンス』500円 (※外税)
●「パティスリー AKITO」
神戸市中央区元町通3-17-6 TEL078-332-3620 定休日/火曜 営業時間/10:00~19:00
※ブログ「パイ日和」では、こちらのタルトをご紹介しています。
田中哲人シェフは、ケーキの構成の各部分がどのような時間差で味蕾に届くかを細かく分析した上で、最終的に組み立てを完成させる、緻密さの持ち主。繊細極まりないケーキをさりげなく美味しいと感じさせる隠れた追究。
本日も、じっくりとその技を堪能することとしましょう。
●『モンブラン』 径7.5cm 高さ5.6cm 130gほど。

2015年ヴァージョンのモンブラン。
昨年はマロンクリームにミルクジャムを加えた、濃厚でやや重めの味わいのものにしていたそうです。
今秋は一転して、軽めの方向へシフト。
底生地はビスキュイノワ、薄くミルクジャムを塗って、クレームトンカ(中に丹波産の渋皮付き甘露煮の栗の小さなダイス)。
栗のクリームは、アングレーズベースにチャレンジしてみたとのこと。
アルディジョワの栗のペースト(そういえば、この名前の栗のお菓子を見た覚えがありますね)だそうです。それにアングレーズ、バター、ラム酒という構成。
表面はモンブランらしく粉糖で仕上げ。
なんと! お酒を使っているケーキは「AKITO」では、唯一これだけ(シェフはお酒弱いそうですよ)。
クレームトンカの方が内側にありますが、味わいとしては先に到達して、その後に栗のクリーム。ほぅ栗との相性はとてもいいんですねぇ。
このマロンクリーム、単独で味わうとかなり甘く、ラム酒も意外と利いているのです。
が、クレームトンカ(トンカ豆は少しシナモンが加わったヴァニラといったような香り。田中シェフはヴァニラでは少しありきたりと思える時に、ちょっとした変化球のつもりで使うとのこと)と一体となって、淡く優しい味わいに感じられるのです。
トンカに覆われて中から栗の風味が沸き出してくるといった趣き。
ビスキュイが分厚く、しっかりしているので、口溶けはいいのですが、最後の味わいとして感じられる部分。この生地だけで商品化してくれないかな、というくらいに美味しい生地。
素晴らしい締めくくりです。わぁ美味しかった!
話はここで終わりません。
ソフトで食べやすい味わいですが、それだけで満足しないのが田中さんらしいところ。
クレームトンカのなかの渋皮煮、ビスキュイのなかにも渋つながりでクルミの小さなダイス。食感のアクセントという役割もありますが、甘ったるさだけで終わりたくないための目配せのような…。
いや、そう書くと誤解を招きそうです。味わいの印象としては渋くはないのですが、微かにトーンを抑えるためのもの、と云ったほうがより近いかもしれません。この微妙さ繊細さが、AKITOさんの美味しさへと繋がっているような気がしてならないのです。
おっと、もとい。
此のところ、立て続けにモンブランをいただきましたが、シェフによって何に重点をおくかアプローチが異なっていて、人それぞれ。面白い体験でした。いずれも名品揃い。
こちらのモンブランは、2015年秋を締めくくる“おおトリ”的存在でした。
●『エサンス』 8.3×3.4cm 高さ5.5cmほど。
2015年の春から、「モンプリュ」の林シェフの発案で、神戸在住の7人のシェフが毎回お題を決めて競作する“オリジン コウベ ORIGINE KOBE”というグループを発足したそうです。
こういう活動は自治体主導が多いのですが、シェフ自ら立ち上げて動くというのは頼もしいですね。
今回の秋冬のコレクションは、お題がエサンス(Essence)。素材はヴァニラ、柑橘、ノワゼット。7人のシェフが同じケーキ名、同じ素材構成で同時に発売。
ふふっ、落語の三題噺のようで面白い企画です。実力派のシェフたちばかりですが、さらになお創作意欲を磨きつづけようという姿勢が素晴らしいですね。
* * * *

さて、田中シェフの『エサンス』。
シェフ自ら、「自信作です」ときっぱり。
おやっ、ほかのシェフのほとんどがヴァニラを副材料として使っているのに対して、どーんとメインに持ってきています。
パティシエにとって、あまりにも身近な存在のヴァニラだけに、他の2つのものと同等に表現するのは意外と難しいのではないでしょうか。
底生地がヘーゼルのパンドジェンヌ、メインがタヒチ産ヴァニラ風味のブール ド ムース。
センターに射込んでいるのが、下から薄くこのケーキのためのオレンジのピール入りジャム、ヘーゼルのクリーム、ヘーゼルの皮付きビスキュイ、オレンジジャム、マダガスカル産ヴァニラのクレームブリュレ(違う産地のヴァニラを使うのは香りの幅を持たせるためですかね)という5層構造。
全体では、7層の構成になっています。
表面はオレンジのピストレ仕上げ。トップにヘーゼルのカラメリゼとオレンジのゼスト。
うーむ、ここでもシェフの時間差の技が冴え渡っています。
口溶けのいいムースで、一挙にヴァニラの世界に引き込まれます。
その甘く優しい世界の底から、オレンジジャムのキリッとした酸味、ピールのほろ苦さややツンとした香りが軽い刺激を送り込んできます。
そして、ゆるやかにヘーゼルの油脂が溶け出し最後に香り、生地とともに最後まで印象が残るのです。ふうぅぅ。
時間差ですべてを意識させつつ、不思議と一体感も。ヴァニラもオレンジも持続時間が長いというか、印象が強いというか。一つに重なり合った響きの良さに、あらためてうっとり。
うーん、やはりヴァニラには夢を魅させる力がありますね。
ケーキで2つの素材の対比は当然なのですが、3つになった途端に難しさが急激に拡大します。2点の素材を結ぶ線が1本だったものが、3本(トライアングル)に増えるのですからね。
しかも素材間に主従関係を持たせずにそれぞれが目立つというのは至難の業。
しかも、なのです。それぞれのパーツが洗練されていて、クラシックな気品すら感じられます。はぁ。
名品ですね。
自信作とおっしゃったのも頷けます、いやはや恐れ入りました。
新店ではありますが、キャリアも長くベテランなのに、シェフの口から2回も“チャレンジ”という言葉が。
今回ご紹介したケーキでいえば、『モンブラン』のマロンクリームをアングレースベースにしたことや、『エサンス』のブールドムースも普段あまり作らないムースだそうです。
長年パティシエをやっていると、手の内に入ったやり方でこなして行くことが、ある意味肝要ではないでしょうか。そこに安住することなく、内なるニーズ、表現したいという思いをつねに大切にしておられるのでしょう。
そういった想いからほとばしるようにして作り出したお菓子。貴方にも実際に食べて確かめていただきたいなぁ。
●『モンブラン』500円 『エサンス』500円 (※外税)
●「パティスリー AKITO」
神戸市中央区元町通3-17-6 TEL078-332-3620 定休日/火曜 営業時間/10:00~19:00
※ブログ「パイ日和」では、こちらのタルトをご紹介しています。