アグレアーブル(6) 『ベラベッカ』

京都の家具屋さん街として知られていた夷川通りは昨今、飲食店が増え、注目のスポットとなっています。その人気の核の一つになっているのが「パティスリー アグレアーブル」さん。
フランス現地の品揃えをそのまま移してきたようなお店。フランスの精神が息づいているのです。
加藤シェフは長年のフランス修業で習い憶えた“普通”の感覚でお菓子作り、店作りをしているのですが、私たち日本の普通人からすると、刺激的。このギャップがこのお店通いを楽しいものにしてくれています。
本日は、冬の名物『ベラベッカ』の最後に間に合ったのでご紹介しましょう。


●『ベラベッカ』  11.8×4.5cm 高さ2.8cm 120gほど。
画像
アルザスの名物、ベラベッカ(berawecka)。

本来クリスマスの食べ物ですが、保存食的なとても日持ちのする食べ物なので、今頃までは普通に売られているもののようです。
シェフの話では、ベラベッカとは“洋梨のパン”という意味の言葉だそうです。

醗酵生地にドライフルーツがたっぷり入るのですが、なかでも欠かせないのが、洋梨。日本では洋梨のドライはあまり見かけませんが、向こうではこれも普通だとか。
ほかにイチジク、プルーン、クランベリー、アプリコット、アーモンド、ヘーゼルナッツ。

これらを塩・胡椒、シナモン、アニスとともにキルシュ漬けに。今回のものは3ヵ月ほど漬けたとのこと。
こちらのコンフィチュールがずらっと並んだ棚に、フルーツやナッツの洋酒漬の瓶が並んでいるのを見た人も多いのではないでしょうか。
蓋を開けて、最近仕込んだものと何ヶ月が経ったものの両方を嗅がせてもらったのですが、うんうん、シャバシャバだったものがどろどろへ。香りもより深く、とても深く。

生地はシュトーレンとは違って、しっかりプツプツ言うまで醗酵させるとのこと。醗酵した生地を粘り気が出るまで捏ねて、フルーツを加え、焼き上げます。1週間ほど馴染ませてから、店頭に並びます。
1ヶ月以上、いやもっとかな、少しずつ熟成が進んで味わいがより深くなるのも魅力ですね。


画像断面を見てください。
ぎっしりとフルーツだらけ、贅沢ですねえ。
包みを明けた途端、キルシュやらフルーツやら、なんやら、醗酵の香りも加わったクラクラするほどの熟成香が。

そっと口へ運ぶと、うわぁ~っ、濃厚! 衝撃的ですなぁ。

そりゃそうだよね、ドライフルーツの固まりをパン生地でぎりぎり繋いでいるだけ、というお菓子なんですから。
ねっとりとした食感の美味しさでじわじわと沸き出してくるフルーツの旨味。スパイスの香り。
こんなに濃厚なのにどこかキレがいいのは、胡椒の効き目なのか、キルシュの強さなのか…。
薄い一切れで十分満足するけれど、うーん、かけがえのない美味しさ。ふぅぅお見事でございます。

いま、赤ワイン(コニャックもよさそう)をお供に、深夜にちょびっとずつ愉しんでいます。大人の特権です。




画像以前に、シュトーレン大好物の私たちは「シュトーレンは作りますか?」と尋ねたことがあります。シェフは「作りません。フランスではそんなにシュトーレンなかったし(ドイツ寄りはあったけど)、僕はベラベッカを」ときっぱり。

いま日本ではシュトーレンがやっと認知されてきて、クリスマス時期の人気商品に駆け上っています。ドイツ菓子店に限らず、パティスリーもパン屋さんもこぞって販売しています。日持ちもするし、配送も平気だし、豪華なギフト仕様にすればお値段高めでもOK。お店にとっては、重宝なアイテムなのです。

なのに、こちらは見向きもしません。
こちらのベラベッカ、大好きな方はまとめて5、6本購入ということもあるようですが、平均すると、日に1、2本。シュトーレンほど売れ行きははかばかしくないはず。
加藤ご夫妻二人とも揃いも揃って、効率重視の考えはちょっと横に置いといて … シェフがフランスで暮らして血となり肉となった“これぞフランス菓子の世界”を伝えていきたいという真摯な想いをお持ちなのです。そういった想いが確固としてベースにあるから、お店の在り方に筋が通っていてブレないのでしょう。
大袈裟に云えば、このようなお店が育んでいく“人とお菓子”こそが、文化を生み出していく力を持っているのかもしれません。
なーんて、青臭く思ったのでした。たはっ。

でも、時々『本物』について思いを巡らすことがあります。こちらはいいきっかけになるのではないでしょうか。



●『ベラベッカ』1500円

●「パティスリー アグレアーブル」
  京都市中京区夷川通高倉東入ル  TEL075-231-9005  定休日/不定  営業時間/10:00~20:00

※ブログ「パイ日和」では、こちらのパイ『りんごのタルトフィーヌ』『りんごのミルリトン』をご紹介しています。