フィル(4) 『モカショート』『フロマージュ ムー』『マシェリ』

兵庫県西宮市、甲子園球場の南500mほどのところにある「パティスリー フィル」さん。
私たちの地元苦楽園からは交通の便が悪く、行きにくいお店なのですが、その道程が楽しみになってきましたね。なぜかって? 毎回、期待を上回るケーキとの出会いがあるから。今回も傑作揃い。さっそくご紹介しましょう。


●『モカショート』  辺8.7cm 高さ(本体)4.8cmほど。
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大人のためのショートケーキ、と云えるでしょうか。

父の日限定で珈琲のケーキをと考えて作り始めたもの。ふたを開けてみると大好評。もう一度という声が絶えません。

皆さんの要望に応えて、ついに定番化。夏の間はコーヒーゼリーに替わりました(これも大好評!)が、秋の声を聞いて復活したところです。

軽やかで口溶けのいい、珈琲風味のジェノワーズが3枚。珈琲風味のクレームシャンティといたってシンプル。
ジェノワーズにはトラブリという濃縮コーヒー液を使っていますが、クリームにはフィル・オリジナルブレンドの珈琲。へぇ凝ってますね。

さくら夙川の「ブロカント」さんのもので、エチオピアとタンザニアの豆をブレンド。スッキリとした香りと軽やかな酸味が特長でしょう。トップにほんの少し振りかけた珈琲の粉末がよく香って、華やかなイメージを添えています。

シンプルで奇麗な味わいなんだけど珈琲の旨味、奥行きの深さに得心しますね。
生地感を残しつつ、抵抗なくスルリと解ける口溶けの良さ、たっぷりのクリームもベタつきを感じさせずに消え、頭の中を薫りが強く静かに染めていく。そんな印象です。

いやあ、わかっちゃいたけど、ただ者ではないですね。お見事!



●『フロマージュ ムー』  2.8×10.8cm 高さ4.3cmほど。
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柔らかな(mou)チーズケーキ、というほどの意味です。

きな粉入りのクランブルが底生地。その上にクリームチーズの柔かめのベイクド。さらにパータボンブがベースのマスカルポーネクリーム。
粉糖でお化粧をして、ハニーメイプルシロップ入りのスポイトが刺さっています。

さて、スタイリッシュな姿のチーズケーキを一口。 
!!? おぉ、なにこれ! 

食感が独特、今までに味わったことの無いような。ボンブがイキイキしていて、口いっぱい泡感に満たされるっ。そう、軽いのです。
なのに、柔らかめのベイクドはほとんど同時に溶け出して、味わいの充実が図られます。泡をチーズが埋めて行くような感覚なのですが、すこしも重苦しさにはつながりません。軽やかなまま“味わいの重み付け”がなされるのです。
ここが新しさであり、絶妙のポイントですね。ふむ。

さらに言えば、クランブルのきな粉が芳ばしい香りを放っているのも満足感に直結しています。きな粉は得てして、味を濁らせがちなのですが、クランブルに閉じ込めて香りだけ抽き出しているので、澄んだ世界をそのままに香りを楽しむことに成功しています。

スポイト(わざわざ仏製のお洒落な形を選んでいます)のハニーメイプルですが、チーズに蜂蜜が合うからとの理由で添えられています。たしかによく合っているし、スマートなデザインの上からは必須です。
が、私たちはチーズ感を十分堪能しつつ、チーズの淡い重み(ここ肝心!)、マスカルポーネとボンブの卵黄の淡い甘味をそのままに味わうことで、はぁ…… すでに大満足してしまいました。

チーズケーキは心に決めたものがいくつかあるのですが、これもまた殿堂入り!



●『マシェリ』  長径6.5cm 短径5cm 高さ4.7cmほど。
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ma cherie 可愛い人(愛情を込めた呼びかけ)、という意味。
ピンク色が一際ショーケースで目立っていました。

薄いシュクレ生地の上にビスキュイキュイエールを敷いて、苺のジュで炊いた苺(+グロゼイユ、ライチのピューレ)のコンポート、全体を苺のムースで覆っていて、なかにミルクプリンが射込まれています。
外周は苺のチョコレートとホワイトチョコを合わせたもの。粒粒は食感を提供するピスタチオダイスとフランボワーズのフリーズドライ。

要するに、商品名通り、甘酸っぱい苺ミルク味のムースです。

もちろん、それだけでは終わりません。ムースがすっと口一杯に広がって、誰の心をも蕩かして幼児に戻してしまうような甘えた満足感に浸らせるのです。
そして、その後、側のチョコレートがパリパリざくざくと砕けながら溶けて行くのにシンクロして、シュクレ(ご説明にはありませんでしたが、底に外周と同じチョココーティング)が軽快にサクサクッと響きを合わせて来るのです。共鳴してるっ、愉快!

ムースが溶けた直後に、食感がテーマのケーキに変身。
これぞ正しく、二度美味しいケーキですね。いいぞいいぞぉ。 



味わいに透明感があります。上質の素材を使っている証でもあるのですが、清々しさを目指すと、往々にして淡白な味わいになりがち。
ところが津田宗俊シェフはその轍は踏みません。清潔でありながら深いコクがあるのです。コクというのは普通、雑味によって得られることが多く、濁りを招きやすい。そこを回避できるのが才能の表れ。フランスでも指折りの巨匠であるクリストフ・フェルデール氏の秘蔵っ子であったというのも頷けますね。



●『モカショート』450円  『フロマージュ ムー』500円  『マシェリ』530円  (※外税)

●「パティスリー フィル FiL」
 兵庫県西宮市甲子園9番町3-25  TEL0798-81-3785  定休日/水曜(火曜不定休)  営業時間/10:00~20:00