焼き菓子の里(4)『欧州の香り(パウンドケーキ)』『バウムシュニッテン』『ゲヴュルツシュペクラチウス

大阪市、阪急の2つの線が交わる交通の要衝、淡路駅から北東に15分ほど。ここに遠くからでもぜひ訪ねるべきお店「焼き菓子の里」があります。
シェフの古井和也さんはドイツ菓子のマイスターですが、イタリアンを経験していたり、日本の食品を大切にしているので、ドイツ菓子の技法を用いながらノンジャンル、あるいはオールラウンドのお菓子作りを行っています。


●『欧州の香り(パウンドケーキ)』  15.8×6.7cm 高さ7cm 430gほど。
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初めて訪問した日、シェフのお母さんにお会いしました。
その時、販売のお手伝いをしているだけのような顔をなさっていましたが、じつは調理師免許を持っているし、シェフが子供のときからパウンドケーキを焼いてくれていたのだそうです。
今でも毎年クリスマス時期に20本ばかり焼いて配っているのだとか。35年間ほど続けている習慣だそうです。

ここで紹介するこのパウンドケーキのレシピこそがお母さんが使っているレシピ。
お母さんはもうすっかり手の内に入っていて、分量を確認せずに作ってしまい「あら今年は卵が多過ぎたかな」などと言っているそうですが、シェフが試しに同じように作ってみると、これが大変な難物。

黄身と卵白に分けて作るタイプで、黄身、バター、砂糖を合わせて粉を加えた後から泡立てた卵白を加える手順になっているのだとか。粉の分量が多くて堅い塊になってしまうので、後からは卵白の入れようがないのだそうです。
子供のときの美味しさを再現したくて、何度かチャレンジし、手順だけを少し変更。粉と卵白を3回に分けて混ぜるようにしたら、ちゃんと浮いたパウンドになったということです。やるねー、お母さんの名人ぶりも体験してみたいなぁ。

画像レーズン、オレンジピール、レモンピール、クランベリーを1日ブランデーに漬けたものが生地に加わります。アーモンドと胡桃も入っています。
表面にはアーモンドスライス。焼き上がりにも生のブランデー(シロップ無し)をたっぷり滲み込ませています。糖衣を掛けたりしないので保存のために必要だとのこと。

「レシピも元々横文字のタイトルが付いていたらしい」ということと、圧倒的なブランデーの香りは、まさに“欧州”と呼ぶのに相応しいでしょう。

卵白が潰れてしまって浮かずに困っていたはずの生地は驚くほどにふっくらと軽い食感を持ちつつ、フルーツのしっとり感とブランデーで濡れた感じもする不思議な感触。
シンプルなどこにでもあるフルーツケーキのようでいて、軽く弾力のある生地が独特。生地自体はそんなに甘くなく、果実の甘味で食べるような感じです。
それに、強烈無比のブランデーも圧巻。食べた後、ちょいと熱くなるようなアルコール感。

ふぅむ、他に類を見ないパウンド、いやブランデーケーキというべきか。大人のケーキです。
あまりに美味しくて止められず立て続けに3切れ。飼い犬が自分にもおやつと鳴きだしたところで冷静になれ、ようやく止まりました、ほっ。いやはやお見事です。



●『バウムシュニッテン』 3.7×7.5cm 高さ3cm 60gほど。
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バウムクーヘンと同じレシピで鉄板で平らに焼くタイプのお菓子です。
四角く切り分けるお菓子をシュニッテンと呼ぶのでしたね。

シェフによると、ドイツではバターとマジパン、ラム酒を使わなければバウムクーヘンとは呼べないそうです。
スパイスもカルダモン、ナツメグ、ヴァニラが定番で最近はトンカ豆も増えているとか。
そしてドイツ菓子にはほとんど例外なく塩とレモンピールが入るとのこと。

このシュニッテンにもこれらすべてが入っていて、とても贅沢で香り高い味わい。
卵黄とバター、マジパンで豊潤で円やかな味わいである上に、馥郁とした香気にも満たされます。ラム酒やスパイスも利いていて、どこかホットな感覚も。

これだけたっぷりな味わいに満ち満ちているのに、少しもくどさを感じさせず、むしろ優しさを感じるのはなぜでしょう。“腕”というしかないですね。あっぱれ!




●『ゲヴュルツシュペクラチウス』(10枚)5.3×3.2cm 厚み0.3cmほど。
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スパイス入りのクッキー。
ベルギーの名産品となっているスペキュロスのドイツ版、といえば分かりやすいでしょうか。

クッキー生地に、9種のスパイス(シナモン、アニス、コリアンダー、フェンネル、生姜、ナツメグ、丁字、八角、胡椒)入り。

そして特徴的なのは、焼く時にアンモニアを使うというドイツ特有の方法を用いることです。

炭酸水素アンモニウムは加熱すると二酸化炭素を放出して生地が浮きます。その代わりアンモニアも発生するので、とても臭い作業。
ドイツでは新入り“からかい”の定番で、「和也~」と呼ばれて行くと、いきなりアンモニアの刺激臭を嗅がされて、「ウッ」ということに。
そういえば、昔は気を失った人の気付け薬にするシーンを映画などでよく見ましたよね。

ベーキングパウダー代わりなのですが、おなじ化学薬品であっても完全に揮発してしまって後に残らない良さがあるようです。その分職人が耐えるという気高い精神が息づいているのでしょう。

話しを味に戻しましょう。沢山の種類のスパイスが入りますが、使い方は微量で、ほんのりとしたいい香りがするというレベル。クッキー自体の生地の香りも十分に伝わってきます。
なんて品のいい香り方なのでしょう。サクサクッとした食感も心地よく、10枚くらいはすぐにペロリ。癖になるよぉ、また食べたいよぉ。



●『4種のクッキー』
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ハロウィン向けの可愛いクッキーシリーズ。
世間では形さえ可愛ければ味はどうでもという商品が少なくありません。が、古井シェフは美味しくなければ許しません。

このところクッキー缶をよく食べたりするのですが、有名店の名物クッキーを軽く凌駕する美味しさ。軽やかで品が良く、そのサラサラと解れる食感を体験すれば、ちょっと忘れられない体験になるでしょう。
しかもバターリッチで実現するのではなく、生地の柔らかさと焼きの技術で実現してしまうのですから、スゴワザというしかないですね。

◆こうもり(1枚) 幅8cm 高さ3.1cm 厚み0.5cmほど。
ココア生地。ほんのりとしたココアの香りと、ほろほろサラサラと解れる感触は一瞬目を見開いてしまったほど。
◆がいこつ(2枚) 幅4.5cm 高さ4.2cm 厚み0.5cmほど。
プレーン。卵の風味がほんのりと。品がいいですねえ。食感はほかもすべて同様の軽さです。
◆おばけ(2枚) 幅4.1cm 高さ3.5cm 厚み0.5cmほど。
紫芋入り。芋の風味はほとんど分かりませんが、ペールな色合いが幽霊っぽい?
◆かぼちゃ(1枚) 幅5.2cm 高さ4.6cm 厚み0.5cmほど。
南瓜入り。プレーンよりやや黄色いかなというレベルで南瓜はよく分かりませんが、穏やかな美味しさに魅了されます。



●『アイシングクッキー』  体長4.3cm 体高5.5cm 厚み1cmほど。
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アイシングクッキーの作り手は女性が多いのですが、どうです? この出来映え。素晴らしいデッサン力じゃないですか。

ドイツ菓子マイスターに臆せずキャラクターケーキを注文する人も多いようで、得意じゃないんだけどと言いつつ、果敢にこなしてしまっています(バースディケーキや記念日ケーキの写真、見せてもらいました)。
デザインも豊富で小サイズには犬、猫など動物シリーズがずらりと揃っているほか、中サイズ、大サイズは凝ったデザインのものがありますよ。

アイシングクッキーは飾り用として堅めに焼くのが普通ですが、ここでもシェフは美味しくなければクッキーじゃないといわんばかりに、サクッと軽めに焼いています。
その代わりアイシングはよく乾燥させてバリンと小気味よく割れます。その食感の落差も美味しさのうち。ふふっ、美味しいウサちゃんでした。



なんとも幅広いレパートリーに驚かされます。やりたいことがいっぱいあって、時間も身体も足りないといった様子です。
まだ紹介していませんが、お菓子とは別にチョコレートの資格も持っていて、店内にはコンクールの賞状をいくつも飾っているほど。プラリネ(ボンボンショコラ)を作るのはヴァレンタインになりそうですが、期待が膨らみます。



●『欧州の香り(パウンドケーキ)』1000円  『バウムシュニッテン』250円  『ゲヴュルツシュペクラチウス(10枚入)』200円  『4種のクッキー』200円  『アイシングクッキー(S)』140円  (※内税)

●「焼き菓子の里」
  大阪市淀川区菅原4-10-35  TEL06-6648-8357  定休日/第1・3日曜&第2・4水曜  営業時間/10:30~19:00

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