アノニム(1)『夜のコース8品』

神戸、三宮。鯉川筋を中山手通まで上って、左へ折れ、一筋目階段を下りて、また一筋目の細道を右へ行くと現れるのが「アノニム」。2011年1月のオープンですから、なんと8年もご無沙汰。
以前の「レストロエスパストランキル」時代には「3.14=π(パイ)の日R」キャンペーンにもご参加いただいており、加古拓央シェフ、マダムのみづほさんとは旧知の間柄。ご無沙汰はひとえにこちらの怠慢によるもの。にもかかわらず、心良く満面の笑みで迎えてくれたのだった。

今回改めて思ったのは、味覚の魔術師だということ。ソース類の意外な組合せで驚かせたり、逆にシンプルな調理で素材の奥行きを感じさせたり。楽しいギミックが減った分だけ、ストレートな力強さが増したようだ。それもこれも、以前から言っているようにキュイジニエの基本である火入れが完璧だから。素材の持ち味を十二分に抽き出す技があるからこそ生きる豊富なアイデア。1974年生まれ今年45歳、まさに充実期を迎えているようだ。(※書き手クボタ)


●アミューズ1『グジェール』
anonyme_chox1.jpgこれは昔からの定番。チーズ風味のシュー生地。
軽くて香りがよく、ほのかな塩味で食欲をそそられる。いいスターターだね。
それにしてもアミューズが4つも続くとは、期待が高まる!


●アミューズ2『市川茄子のツナソース』
anonyme_nasu1.jpg姫路の北に市川というところがあり、そこの在来種の茄子。加熱したときのトロッとした食感が特徴。
間にオイルサーディンを挟み、ツナソースをたっぷり掛け流している。
茄子の魅力がもちろんベースだけど、ソースが美味しい。サンドイッチなどでよく使われるものはなんとも悪辣な匂いがするものだが、これはとても品がいい。思わずパンを浸して、皿が奇麗になるまで食べ切った。


●アミューズ3『金目鯛と赤タマネギのマリネ』
anonyme_kinme1.jpg南蛮漬的な料理だが、金目鯛を揚げずに焼いているので、ずっとサッパリしている。
ブラッドオレンジと赤紫蘇のソースにハーブオイルと爽やかな味わい、香りをまとわせていることが、夏らしい美味しさに際立った効果を発揮している。


●アミューズ4『ピーマンのバスク風』
ピーマンにリゾット風のごはんを詰めたものに、ラール( lard 豚脂の塩漬け)のスライスが2枚載っている(写真がうまく保存できなかった。深謝)。
リゾットは芯が無くなるところまで煮ていてむしろ食べやすい。チョリソのみじん切りやエスペレット(唐辛子)が利いていて適度に刺激がある。ラールの塩気が味を決めている。旨い。
ピーマンが昔の、子供には食べられないようなえぐいものだったら、もっと切れ味がよかったかも、とは思った。無い物ねだりにはなるけれど、最近の野菜はマイルドすぎるのでね。


●前菜『トマトと夏野菜のスープ』
anonyme_tomato1.jpgガスパチョの簡易版かなと思ったら、なんとトマトとオリーブオイルと塩だけだというから驚き。爽やかでありつつ、なんともコクの深いスープ。オクラ、キュウリ、ナス、オリーブ、トマト、バジル、モッツァレラチーズなどが浮き身。
それぞれの生野菜がフレッシュな香りと食感に満ち、活き活きとして、一口ごとに歓びを感じる。そこそこ量のあるスープを最後まで飽きさせない。お見事。


●魚『鯛のポワレ パッケリの魚ソース煮込み』
anonyme_sakana1.jpg鯛のポワレが火の通り、塩気ともジャスト。
パッケリというパスタが面白かった。形は手首に巻くサポーターのよう。
フュメドポワソンで煮込んでいるそうで、味わいが深い。魚の種類が多く複雑で濃厚な味わい。私は個人的には甲殻類の香りを感じたが、使っていないとのこと。
みづほさんが「魚が甲殻類を食べていると香りが移ることもあるようですよ」と優しくフォローしてくれた。


●肉『白金豚と万願寺のロースト』
anonyme_buta1.jpg白金豚がふっくらとローストされ、噛むほどにジュワリと肉汁が滲み出す。万願寺も完全に火が通って旨味が増している。
ソースが独特。パプリカとピーナッツペースト、ブルーベリーとマスタード。まったり感と軽い刺激との間を行き来する感覚が楽しい。
ソースが混ぜ合わされていないので、一口ごとに別の味わいで食べるのが変化に満ちていていい。最後にすべてを混ぜ合わせて総決算とするのもいい。


●デザート『ヘーゼルナッツとレモンのクリーム』&『サクランボのクラフティ』(by「ラ・ピエール・ブランシュ」)
デザートは2種から選べる。一つはオリジナルで、もう一つは神戸の至宝ともいうべき「ラ・ピエール・ブランシュ」からの取り寄せ。

★『ヘーゼルナッツとレモンのクリーム』
anonyme_lemon1.jpgヘーゼルとレモンは知る人ぞ知るマストの組合せ。ヘーゼルの濃厚な香りを満足しつつ、レモンの爽やかさで奇麗にまとめあげている。
軽やかで重厚。お見事。

★『サクランボのクラフティ』
anonyme_clafoutis1.jpg白岩さんのタルト類はほぼ常に絶品。
今回のクラフティも文句の付けようがない。やや塩気のあるフォンセにコクのあるアパレイユ。ちゃんと甘酸っぱいサクランボ。満点なのだが、加古さんのクリームが満点以上だったので、ちょっとかすんでしまった。
以前から加古さんのデザートは目を惹く素晴しさがあったのだ。キュイジニエにしておくのがもったいないくらい。


●飲み物『コーヒー』(グリーンズコーヒーロースター/神戸)&『ハーブティー』(梶谷農園/広島)
anonyme_coffee1.jpg飲み物はいずれも定評のある店から取寄せたものを使っている。コーヒーもしっかり風味とコクともに深いし、ハーブティーも香り高く雑味が無く爽やか。


●パン『自家製オリーブオイル入りソフトタイプ』&『パンドカンパーニュ(by「サ・マーシュ」)』
自家製のパンは食事の邪魔にならない、控えめな味わい、軽くサクッとした食感のもの。ソースを拭ったりするのに最適。地味ながら美味しく、気が付くと食べ過ぎているパターン。
もう一つはこれまた神戸の至宝「サ・マーシュ」を代表するパンドカンパーニュ。小生たちもいつもこれを買ってしまう。何回食べてもサワー種の美味しさにしみじみ。重厚だけどしゃしゃりでない節度もあって、食べ飽きないパンだ。


●ワイン『CHATEAU PETIT-FREYLON 2015』
ワインは予算と好みを告げれば、みづほさんが何本かセレクトしてくれ、それぞれの説明を聞いて選べばいい。4000円クラスで重めであれば嬉しい、と伝えて出てきた3種のうちの1本。
香りの持続力は長くはないが(そこまで望むならもっと高いものを選ばなければね)、香り自体はベリー系の飲みやすい香り。それなりにタンニンもあって、飲み応えもある。ベストチョイスだったかな。


うーん、これだけの内容で6500円は安い。
加古さんがフレンチを特別の存在に祭り上げず、もっと庶民的な普通の食事にしたいという思いから低価格でなければと、この価格設定にしてしまっているようだ。その価格に対して創作意欲の強さ、精度の高い調理内容がミスマッチしており、そのコストパフォーマンスの異常なほどの高さが、逆に伝わりにくくなってしまっているような気がする。倍以上の値段を取っている高級レストランでもこれほどまでの料理を出せていないところも少なくない。食べることが三度の飯より大好き(!)な庶民にはありがたい、大絶賛すべき店だね。
カウンター8席。シェフやマダムの目が行き届き、心地いいサービスが約束されているのも大きな魅力だ。

●『夜のコース8品』@6500円×二人 (※外税・サービス料無)
  ワイン      4000円  合計18360円
●「アノニム anonyme 」
  神戸市下山手通4-13-3  TEL078-778-0965  定休日/日曜・月曜  営業時間/12:00~15:00 18:00~22:00

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