パティスリー ミャーゴラ(3)『ポム』『ジャージープリン』

京都、市街の北西、紫野にある「パティスリー ミャーゴラ」さん。2018年10月オープン。元気のいい奥山智浩くん(1984年生まれ)のお店です。人と同じことはしたくないというと変わり者のようですが、溢れるようなアイデアの持ち主なので、自然に人と違ったことをしてしまっていると言った方がいいでしょう。
最近独立する若手は、経済環境の悪化・人材難のなかで、自己主張を抑え、冒険せず、お客様の好むものを手探りしながら安全に慎重に経営する人が目立ちます。その気持ちも分からない訳ではないですが、若さの特権をみすみす捨てているような気もしてもったいないなぁと感じていました。
そんな周囲とはまったく無縁のように自由な発想で、暴走気味! の彼の存在は貴重。応援したくなる所以です。


●『ポム』  径5.5cm 高さ5.5cmほど。
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真っ赤な林檎、ピカピカと輝いています。ほんと、林檎そのまんま。リアルりんご、いやより正確には、リアルりんご飴。
息をするのも忘れて、じーっと見詰めてしまいます。
『シトロン』に続くフルーツの形そのままシリーズ。ほかに『ライム』があり、夏には『マンゴー』も作りたいな、とのこと。

型は市販のものがあるのでチョコレートやムースの流し込み技術があれば比較的簡単に出来てしまうのですが、問題は味をどう作るか。形がリアルなのでついつい本物そっくりの部分を作り出したくなるでしょう。
でも奥山くんはそっくりは外観のみ。ホワイトチョコで型を作り、フランボワーズのグラッサージュとチョコの棒で、見た目をリアルに作り上げています。
中身は『お花のようなりんごのタルト』で紹介した、青林檎のフレッシュコンフィ(グラニースミスで作った青林檎のピュレにレモン汁・砂糖・ペクチンを加えたゆるい粘度、低い糖度のジュレのようなものにグラニースミスの細かなダイスを混ぜたもの)を中心に抱いた、イボワールと青林檎のピュレによるガナッシュが詰められています。

そっと切ってみると …… うひょー! 赤林檎から飛び出してくるのは、青林檎! 赤いよく熟れた林檎の甘いイメージから、青林檎の爽やかな酸味が流れてくる仕掛け。
鮮烈な酸味を、後から溶け出す外殻のホワイトチョコがゆっくりと慰めてくれるでしょう。美しいフランボワーズのグラッサージュの甘酸っぱさも抜群。果実の酸味好きとしては大歓迎の林檎のプチガトー。お見事です。

こんなに素敵な林檎を食べると、ふと、「白雪姫」の映画が再度観たくなってきますね。スペインの「ブランカニエベス」(白黒サイレント)のダークファンタジーがお気に入りですが、奥山くんと話していると、闘う白雪姫「白雪姫と鏡の女王」(圧倒的な映像美のターセム・シン監督)がぴったりかも。元気がでます。


●『ジャージープリン』 器内径6.3cm 深さ4.8cm 150g(器含む)ほど。
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発想豊かなお菓子が並ぶ中で、これは唯一と言っていいくらいノーマル。あははっ。
けれど、美味しさはノーマルの世界をはるかに越えた、とろとろプリンです(冷蔵のショーケースがないので、大理石の上に置かれたホワイトチョコで作った見本、それがもぅ本物? まさかね常温だし、と見紛う仕上がりですよ)。

下からカラメル、アパレイユ(卵黄多めの卵、牛乳、生クリーム、砂糖、トレハロース、ヴァニラペースト)、もちろんジャージー牛乳とジャージー生クリームを使用しています。トップは、乳脂肪35%のクレームシャンティに粉糖。

嗚呼、なんて美味しい牛乳なんでしょう。牛乳の香りに、満ち足りた気持ちになります。子供の頃に飲んでいた瓶牛乳の紙蓋の裏に乳脂肪が固まっていたりした、ノンパスチャライズのような懐かしの牛乳を思わせるものがあります。うん、満足!
おまけに、卵の風味による分厚いボディにも不足がないのです。それでいてバランスはミルクプリンの域内に落ち着くようにしっかり計算され尽くしています。

いつも書きますが、私たちはビストロのデザートで食べる『クレーム・カラメル』が本来大好きです。四角で、どーんと大きくて、やや堅めで、ほろ苦カラメルに黄色く甘い卵のプリン。パティスリーでも同様に、懐かしのTHE プリン、という感じのもの。
白いとろとろ柔らかプリンが流行り出した当初、美味しくない植物性の生クリームたっぷりで作っていた企業が多かったのでしょう。口当たりはいいかもしれないけど、味はどうしたのかしらん、という感想だったのでめったに購入しなかったものです。
しかし、腕のいいパティシエにかかると、とろとろっとしつつ、卵の風味やミルクの風味も楽しめるようになっているようですね。素材もいいしね。最近、満足できるものによく出会うようになってきました。個人店のものはもともと美味しかったのでしょうね、きっと。
ということで、こちらのも当然、あぁ美味しかったぁ! 毎朝の元気の素にしたいくらい。素晴しい!


アナログ人間で自動車嫌い、お店へは自転車に乗ってくるという奥山くん。たしかにゆっくりの方が入ってくる情報は豊かな気がします。走っている時に身体に直に触れる風や空気、匂い、音などで、自然の移ろいを感じる毎日を過ごしているのですね。
もっと極端に私たちみたいに徒歩になれば、道のひび割れに生え出た名も知らない草を目にしたり、雨続きで家の塀が苔じみてきたとかが気になったり、寒い夜道で不意打ちのように匂ってくる沈丁花に春の兆しを嗅ぎ取ったり(今年は暖冬でイマイチなのでした)、これってトマソンじゃない? とはしゃいだり…、だからといって、もし損得を基準にすれば、別に得なことなどはありませんがね。
クボタが最近読んだ小説で「緩慢の発見(シュテン・ナドルニー著)」というのがありますが、子供の頃あまりに物をじっくり見るので、動作が遅く、会話の返事もままならず痴愚と思われていた人が、成人して北極航路発見の大冒険家になるというものでした。
拠り所になるのは、要領のいい人たちから誹られても、その現実から逃げ出さないで自分のテンポで考えたり感じたりすること。そして、それを大切にすることで、何かを実現できるのかもしれません。アナログの可能性を思わせますね。

●『ポム』600円  『ジャージープリン』350円  (※内税)
●「パティスリー ミャーゴラ」
 京都市北区紫野上門前町105-2  TEL075-204-5337 定休日/日曜  営業時間/10:00~19:00
※ブログ「パイ日和」では、こちらのお店の『お花のような林檎のタルト』をご紹介しています