ミラヴェイユ(2)『シュトーレン』

師走です。冷え込む日も増えて来て、いよいよ冬到来。縮こまってしまうことの多いこの季節に嬉しいのがシュトーレン。キリストの降誕を待ち望んで、お包みをきた幼子イエスを象ったケーキを待降節の始まった日(今年は11月29日)から毎日少しずつ切り分けて食べて、イエス降誕のありがたみをしみじみ味わうという宗教的なお菓子です。1ヵ月近く日持ちさせるために、醗酵種も砂糖もスパイスもたっぷり。
元々ドイツを中心に作られているお菓子ですが、最近はちょっとしたブームで、『ビッシュドノエル』『ベラベッカ』しか作っていなかったフランス菓子のお店でも盛んに作られるようになってきました。さらに、醗酵させるのでパン屋さんが主体だったのが美味しいお菓子ということでパティスリーも作るようになってきました。
大まかに、素朴で宗教色の強いドイツのパン屋さん、ドイツのお菓子屋さん、フランスのパン屋さん、フランスのお菓子屋さんと次第に贅沢の極みのようなお菓子へと変貌しているという図式が描けそうです。お値段も違いますね。
それぞれの良さがあり、一概には言えませんが、ドイツで古くから作られているラードを練り込んだ重厚な味わいのものを食べると、ああ本来はこういうものなのだな、うん罪深くないな、と思わせられます。
まァ信心しているわけではなく大食の罪を犯しつづけている私たち。今年も例年通り3本は食べることになるでしょう。

さて。2020年の口火を切るのは兵庫県宝塚市、逆瀬川の「パティスリー ミラヴェイユ」さん。もうオープンして10年になろうとしているお店なのに、ようやく昨年から通いはじめたのですが、たちまち虜になってしまいました。長年のご無沙汰の罪滅ぼしに典型的な贅沢の極みの『シュトーレン』をいただくことに。
年齢を重ねても相変わらず、へへっ無節操な私たち。


●『シュトーレン(小)』  13.5×7.1cm 高さ5cm 335gほど。
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妻鹿シェフ「ケークっぽいです、油脂多めです!」とにこやかに宣言。
端正で美しい姿です。カットすると、真ん丸のマジパン棒がきれいに鎮座しています。
バターとローマジパンをたっぷり練り込んだ生地に、フルーツと胡桃をこれまたたっぷり。メインはレーズンで、それとドライ林檎はそれぞれラム酒に漬け、ドライの無花果は砂糖とシナモン、ヴァニラ、赤ワインで炊き、オレンジピールとミックスフルーツもラム酒漬け。長くは漬けず新鮮な香りを活かしています。スパイスはシナモン、アニス、カルダモン、ヴァニラ、レモンゼスト。
生地にもたっぷりローマジパンが入っているというのに、マジパン棒を通しています。
表面にレーズンなどがチラッと見えるシュトーレンもありますが、レーズンが焼けるとかなり苦くなるので、ガルニの入らない生地で薄く覆っています。妻鹿さんらしい、細やかな気配り。
澄ましバターに潜らせて、仕上げは目の細かいグラニュー糖。
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カットして、一口。ほぅ~スパイス、バターとフルーツ、ラム酒 … さまざまな香りが渾然一体となって立ち上がってきます、華やかに清らかに。
短時間醗酵にするためイーストは多めだそうですが、豊穣な香りに隠れて分からないくらい。ずっとこのまま薫りの世界に浸っていたい気分。
個々の香りの競い合いが見事。スパイス類は清々しいイメージのものが集められ、そこへ豊満なバターとアーモンド、ラムの芳醇な香りが覆うように寄り添って来て、マジパン棒の杏仁香がさらに強く過って行きます。胡桃の香りもあるし、おっ時折、林檎のダイス、やや大きめなので出会う瞬間、爽やか。わぁ! 
食感も胡桃のシャクッとした感じ、林檎のかすかなシャキ感、グラニュー糖のかすかで繊細なアクセント。どこもかしこも主張しています。
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シェフの言葉通り、もうこれは贅沢を追究しつくしたようなケークです。バターが多くて生地が繋がりにくくなっている上にガルニが多く、切り分けるのも大変なくらいに脆い。
フランスのお菓子屋さんのシュトーレンはとても豪華で美味しいけれど生地の美味しさじゃないね、という感じることが多いのですが、妻鹿シェフが精魂込めて作る『シュトーレン』は生地までが贅沢の極みの美味しさ。バターとローマジパンの力を感じます。ガルニが小さめで生地との一体感があるのも寄与しているかな。
小さいサイズなのにズシリと重い中身の詰まったお菓子。食べた印象も賑やかすぎるくらいぎっしりと詰まりに詰まっています。なんて内容が濃いのでしょう。
ことシュトーレンに関しては、ドイツ、パンの方向に肩入れしがちな私たちです(伝統菓子の範囲を大幅に越えて欲しくないような、否、いま現在美味しければいいんじゃないという想いが交差)が、これだけ美味しいと宗旨替えしたくなりますね。いやはや、お見事!


これだけ油脂分が多いとくどくなるはずなのに、香りのキレの良さのせいか、清らかなイメージが勝っています。
ウーム、とてもクリスマスまでは持ちそうにないですね。時間とともに味わいが深まるのですが、それでも新鮮なイメージが残っている間が食べ頃。シェフは1、2週間で食べ切って欲しいと言っています。ふふっ私たちはすぐ無くなりましたよ。
最後に、ひとつだけ残念なことを云えば………、大きなサイズを選ぶべきだった、嗚呼!

●『シュトーレン』1700円(5.07円/g)(小/箱入りは1910円) 2550円(大/箱入りは2770円)  (※外税)
●「パティスリー ミラヴェイユ」
 兵庫県宝塚市伊孑志3-12-23  TEL0797-62-7222  定休日/水曜、第2&4木曜  営業時間/10:00~19:00