珈琲山居(1)『ボリビア』『カフェオレ』『ラムボール』『コーンブレッド』

京都、大徳寺近くの大宮商店街にある「珈琲山居」さん。自家焙煎珈琲店です。ユニークなお店が散在することで名の通ったところ。また一つ飛び切りのお店が仲間に加わりました。
訪れた11月27日がちょうどオープン1周年の記念日。すぐ近くの「パティスリー ミャーゴラ」さんが前から熱心に勧めてくれていたのです。この日はほっと一息吐く余裕ができたので寄ってみました。
居山貴行さん(1982年生)と奥様の優子さん(1984年生)ご夫婦が営んでいます。店名は姓をひっくり返しているのですが、“市中山居”の意味も込められています。出典は不明ですが、利休の詫び茶の精神を語る時によく引用される言葉。たしか、町中にあっても心を落ち着け、山里の詫びた精神を楽しむといった意味だったと思います。
お店はさりげなくご夫婦の趣味で貫かれていて、心地のいい空間が作り上げられ、とても1年しか経っていないとは思えない落ち着きと風格があります。柿渋を自分で塗ったという焦茶の腰板を巡らせているのも品のいい落ち着きを醸し出しているのでしょうね。本棚には鶴見俊輔、須賀敦子、長田弘、レイモンド・カーヴァー、フリオ・コルタサルをはじめ、私たちが若かりし頃親しんだ本が並んでいます。なんでも、ご主人が読んだ本を順次置いていっているそうです。LPはグレン・グールドがあれば、チャーリー・バードもあるといった雑多ながらセンスの光る揃え方。この日流れていたのはリュートの音楽とピアノソロの静かなジャズ。声高でない気品を生み出すのに力を発揮していました。
自分たちが心から想う、美しいもの愉しいものが行き渡った店内、このような雰囲気はそこに身を置いて初めて理解できる心地の良さでしょう。しかも、押し付けがましくなくさらっと。無理にコミュニケーションをとったり、ということもなく、自由気侭に過ごせるように心を砕いてくれています。そっと、こちらが気づかないようにです。
そろそろメニューに参りましょう。若いのに奥床しく品のいいご夫婦に感化されて、なんだか静かな言葉遣いになってしまいますね。時にはこんな「パイ日和」もいいでしょ、ね。

●『ボリビア』
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扉を開けて一歩中へ入ると、珈琲の薫りが広がっています。あぁいい匂い、満たされます。
コーヒーはオリジナルブレンドの他に、エチオピア、コスタリカ、ボリビア、南インドという品揃え。貴行さんの趣味でセレクトしていて、時々入れ替わるとのことですが、メジャーな産地を集めるのではない微妙な外し具合に個性が出ています。
ボリビアは中深煎、南インドは深煎とそれぞれの豆のベストの煎り方で淹れてくれます。小さな焙煎室があって、なんとも居心地がよさそうな個室風で、羨ましくなりました。
ドリップでコーヒーの油分を感じさせないようなサラリとした飲み口。ストレートでもマイルドに感じられ、コクがやや弱いのかなと思わせるのですが、ミルクを入れてもコクが変わりません。
静かに主張する苦みとかすかな酸味と甘味が、お店の雰囲気にも通じるさりげない味わいを創り出しているようです。

●『カフェオレ』
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私イワモトは、珈琲は薫りが大好きだけど、飲むのは紅茶派(ミュリエル・バルベリ著「優雅なハリネズミ」にもそんな場面が。飲むのは緑茶でしたっけ)なので、珈琲と名乗っておられるところでは、カフェオレと決めています。
奥様の優子さんは前職でギャラリーにいたことがあり器にも興味があるそうで、カフェオレには抹茶茶碗が使われ、掌にすっぽりと納まり優しい温かさを伝えてきます。カフェオレボールの和風版といったところ。冬場は最適。
カフェインレスが選べるのも嬉しいし、ミルクを豆乳に替えることも出来ます。ミルク少なめでコーヒーの味わいを残しているので、珈琲党も選んでおかしくないアイテムになっています。

●『ラムボール』  径4.3cm 高さ4cmほど。
お菓子は優子さん担当。独学で、自分が美味しそうだなと思うものを手作りしています(1周年記念でいただいた、米粉使用の胡麻のハートクッキーもとても香っていて美味でしたよ)。
世間の今の流行りなどは無視しているところに独自の世界観が表われています。こだわっている訳ではなく、食べて美味しいと思うものを作るとグルテンフリーだったり、ヴィーガンだったりするけれど。バタークリームも大好きという自由な構え。
ラムボール、昔はちょくちょく目にしていましたね(「イノダコーヒ」さんの『ラムロック』や「上島珈琲店」さんの『ジャマイカンラムボール』などは健在)。ケーキクラムとチョコレートにラム酒をたっぷり吸わせ、チョコレートコーティングしたようなお菓子です。
うーん、懐かしいなぁ。可愛いサイズなのにけっこうチョコが濃厚だし、ラム酒も香っていますね。グルテンフリーと書かれていたので、クラムが小麦粉ではなく米粉かなにかだったのでしょうか。味に影響はなくノーマル。ラムボールのイメージそのものです。

●『コーンブレッド』  8.3×6cm 高さ3.8cmほど。
アメリカでは家庭の朝食に簡単に焼かれたりしているようです。コーンミールと小麦粉、卵、砂糖、BPなどを混ぜてサラダ油で焼くのが一般的です。
作り方のヒヤリングをしていませんので配合は分かりませんが、コーンがよく香り、ふっくらと焼けていたので、同割りくらいの感覚ではないでしょうか。
温めてくれるので、表面がカリッサックリと芳ばしく軽やかに焼き上がっていて、とても美味しい。コーンの日なたのような芳ばしい香りも広がります。メープルシロップとの相性も良く、コクと風味のあるパンケーキを食べたようで大満足。


今回、お客様もいらっしゃったので、いつものようにどしどしずかずか聞く、ということはしていません。この穏やかな空気感を乱したくなかったし、普通のなんでもない会話をしたかったからです。といっても少しは聞いてしまったのですが(ライターの哀しい性とお許しください)。
お二人ともどこかで修業したという経験はゼロ。まったくの独学だそうです。貴行さんはデスクワークのサラリーマンを10年ほど続け、喫茶店という存在が好きで、ずっと喫茶店を持ちたいと考えていたそうです。
とはいえ、今時カフェブームで、バリスタの大会で入賞したような人や名門で焙煎の修業をしたような人のお店が林立している昨今。とても危険な賭けに出た、と思われるところです。
ところがお二人ともまったく肩に力が入ることもなく、自分たちの趣味を構えることなく、さりげなく提供することで、はからずも市中山居の心に通じるもてなしの空間を作り上げているのでした。これはもう喫茶の宗匠と呼びたくなりました。またお伺いします。

●『ボリビア』530円 『カフェオレ』550円 『ラムボール』380円 『コーンブレッド』400円  (※内税)
●「珈琲山居 自家焙煎珈琲店」
 京都市北区紫野上門前町107  TEL070-5431-6238  定休日/火曜・水曜  営業時間/10:00~18:00 (月木金) 9:00~18:00(土日祝)