RAU パティスリーラウ(1)『Bin赤』『Rau緑』

京都、四条河原町の交差点にある高島屋の南に2019年12月に出来た、京阪グループの複合商業施設&ホテル「グッドネイチャーステーション GOOD NATURE STATION」に店を構えている「RAU」さん。1階に販売店舗、3階にカフェ。
さて、ラウって一体どういう意味? 聞き慣れない単語だなとまずは思ってしまいましたが、気高く上品なという意味の古語“らうらうじ”から採られたそうです(何十年ぶりかで、思わず古語辞典をめくってみる私)。
ビル名に見られるように、コンセプシャルな方向性を打ち出していて、入居するテナントもそれぞれ意識の高いお洒落なお店ばかり。2階に入店している3店舗はミシュランガイドで一つ星獲得のレストランだそうです。
こちらも1階は冷蔵ケースはなく、商品はサンプルのみで、宝石店かギャラリーを思わせるような展示方法です。白い台にお菓子が並んでいるのですが、無造作に青色が散りばめられていて、ん、なんだか、“イヴクラインの青”を彷彿とさせられるのでした。
そこへ、いずれも1品1品他店にはない、まるでアート作品のようなユニークなデザインのプチガトー。形だけでなくハーブや野菜なども取り込んだアグレッシブな印象のものばかりです。なんでもインスタ映えとかで、一般の方に大人気なのだとか。ふーん。
私たちはある巨匠シェフとたまたまこちらの話しになって、とても厳しい評価だった(彼はいつも基準が高いのです)ので、「じゃちょっと行ってみるか」と興味をそそられたのでした。ははっ、もの好きですね。
まずは第一印象を簡単にご紹介しましょう。
私たちは時間がなく1階のお洒落なフードコート的な席で食べたので、3階のカフェで作っておられる松下裕介シェフ、高木幸代シェフのお二人とはお話しできていません。理解の不十分なところがあるかもしれませんが悪しからずご了承くださいませ。

●『Bin赤』  径5.5cm 高さ12cmほど。
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ほぅ、すっとした姿に鮮やかな赤、トップには可憐な花。一際目立ちます。この背の高さで、ななんとムースのケーキなのです。
切ると、ムースの中からソースがどろっと溢れだす仕掛け。パリの「ル ムーリス」のセドリックグロレシェフを思い浮かべました。ケーキの新しい在り方と云えるでしょう。
でも、このような瓶の形は初めて見ました。次の『緑』にしてもオリジナルの形のようです。最近は3次元プリンターがあるのでオリジナルの形も容易になっているのかもしれませんね。

味の方も野心的な狙いを持っています。ショーカードには、“アールグレイと野苺”の表記。
アールグレイのムースを赤く色づけたホワイトチョコで包み込んで、保形性を保っています。中に射込んでいるのはアールグレイのソース、野苺を野薔薇とトマトのソースで和えたもの。しゅるしゅるです。底には小さなビスキュイ。
香りのプチガトーです。アールグレイのベルガモット、野苺の野性的、野薔薇の上品な香り、トマトのやや青臭さ…とせめぎあう香りに魅了されつつ、ムースの柔らかな甘さと野苺・野薔薇・トマトの酸味の対比がピタリと決まるはず。

が、残念ながら、これだけの背の高いムースにするにはムースにかなりのゼラチンを投入しなければならず、口溶けが悪く、流れ出すソースの敏捷な味とは一体化しません。後にぼんやりとしたムースの甘さ、これまたゼラチンたっぷりのためにビニールのような感触のカバーのホワイトチョコがいつまでも口に残ってしまいました。

rau_bincut.jpg香りもせめぎあうのではなく、混ざってしまって(渾然一体とはすこし違う)せっかくの野薔薇の高尚さを活かせず、と思わせてしまいます。
トマトを使わなきゃ普通っぽくなってしまうという強迫観念に捕われたのか、若さ故(30代くらいまでは当然持っているべき姿勢)のあれもこれもと盛り込み過ぎの狙いを整理しきれなかったのか。アプローチが斬新なだけに、もうちょっと突っ込んで欲しかったかな。うーむ。
逆に言えば、ノーマルな世界に留めようという想いが角を矯め過ぎているのかもしれません。もっとぶっ飛んでいた方が納得感が強いかも。

とはいえ、やはり薫りのケーキ。鈍感な私たちの味覚にも分かるようなシンプルさはもともと狙いではなく、何を味わっているか分かりにくい。ですが、そういうことはじつは関係ないのかもしれません。
いろいろ混ざって異なった、不思議な香りの世界(そう、どこか懐かしい色香)へと昇華しているようにも感じたことで、ふとある思いが閃きました。菓名の“赤”い瓶からカオスが流れ出す様を抽象化したプチガトー、という見立てで味わうと、それはそれで面白い。
ひとつひとつの香りやパーツに細かく反応するのではなく、見立ての楽しみ方をすべきだったと、ちょいと反省。こちらに非がありますね。

●『Rau緑』  8.3×4.2cm 高さ6.3cmほど(奇麗に撮れませんでしたので、写真は飾ってあった見本です)。
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これまた、変わった形です。緑の丘のような。枯葉が一枚。
洋梨とジャスミンの花のソースがトップの窪みに。ジャスミン茶のムースの中には、セロリと林檎をパイナップル、パッションフルーツ、マンゴー、ライムのソースで炊いたものが射込まれています(HPで確認)。ほかにディル、ジンも使われていて、底生地はやはりビスキュイ。

ムースは『Bin赤』の方にも言えることですが、アンフュゼが弱いのが惜しい。こちらはそれほど背が高くはありませんが、ムースの堅さ、ホワイトチョコの粘り方は同じ製法をとっているようです。このカバーのホワイトチョコはアセットデセールの皿だと諦念して、食べないという選択もあり、です。

rau_raucut.jpgただ、カットするとお約束通り、とろりと流れ出す、中のソースにはあっと驚きました。
単にトロピカルフルーツを混ぜ合わせるのは、美味しいけれどありきたり、といったところでしょうか。セロリがうまく溶け込み、フルーツの香りを背負ってシャキシャキと歯切れのいい、新感覚のパイナップルみたい! 
ディルやジンは存在意義が伝わらないようなレベル。でもないとつまらないのでしょうね。

洋梨・ジャスミン・セロリ。この組み合わせも刺激的。興味をそそられます。ハッとさせられ、やはりワクワクしてしまいます。
菓名“緑”から、春から初夏の草原をイメージしていただくと(多分そういう意図ではないのでしょうが)、へぇ薫風の爽やかな季節だなぁと心は遊びに誘われます。食べ手のイマジネーションへの挑戦のようにも受け取れ、ある意味、面白い体験と云えるでしょう。


若干きつい表現になってしまいましたが、注目の能力の高いお二人なのでこういった意見も余裕を持って吸収していただけるものと思い、あえて書かせていただきました。多分、あまりの価格設定に拒否反応が起こっているからでしょう。一つ、1458円也。
とはいえ、東京のあるパティスリーでは数年前、友人のフランス人シェフに「高級材料をふんだんに使っているし、こんなに精巧に美しく手間をかけているのに、この値段はあり得ないよ。土地代だって高いじゃない。千円は当然だよ」と言われたそうです。ましてや、ホテル価格と考えれば仕方がないのかな。
いまやどこのお店でもお値段高めに変更になってはきていますが、それでもまだまだやっている内容から鑑みれば、現状のパティスリー価格は安いのかもしれません。ということで、いろいろご意見はあるでしょうが、ひとまず価格のことをしばし忘れましょう。

rau_yuki3.jpg味覚や食感は造形の犠牲になっている部分がありますが、プレゼンテーションの素晴しさは、今後のパティスリーの在り方を示唆しているのかもしれません。あくまで、一つの方向性ですが。

冬限定商品の『YUKI』(柚子・バナナ・ベリー・カカオ/写真右)のように、単純な型を使ったものではないアブストラクトな前衛性を示しているものもあり、刺激を受ける若いパティシエもいることは想像に難くないですね。

それ以外にも、最中の皮をタルト台にした『チョコレートタルト』やパウンド、焼き菓子、ジェラード、そしてビーントゥバーのショコラトリーでもあるので、タブレットやチョコケーキ、オランジェットなど多彩な品揃えです。モダンアートに触れ合う感覚で楽しめます。
販売スタッフもこういうところにありがちなとりすました対応ではなく優しく、丁寧に説明してくれて好感度高し、でした。

●『Bin赤』1458円  『Rau緑』1458円  (※内税)
●「RAU」1階販売&3階カフェ
 京都市下京区河原町通四条下ル GOOD NATURE STATION内  TEL075-352-3712  定休日/無休  営業時間/11:00~20:00