ドイツ菓子フラウピルツ(5)『ケーゼザーネトルテ』『スパニッシェバニレトルテ』『エンガディナーヌストルテ』『バニレキプフェルピルツフォーム』

京都。叡山電鉄・茶山駅から北東に徒歩10分ほど。北白川の通りから少し住宅街に入ったところにある「konditorei und Cafe Frau Pilz フラウピルツ」さん。大大好きなのに、なぜか7年余りのご無沙汰。久々の登場です。
宮下あゆみこさんが一人で作っている、正統派ドイツ菓子のお店。ドイツで3年ほど修業し教わった味をそのままに伝えてくれる姿勢は、少しもブレていませんでした。菓名をドイツ語で貫くのも頑として止めていません。ついつい、中身が変わるわけじゃなしと、気安く日本語表記に置き換えがちなところです。お客様は知らない菓名だと買うのを躊躇しますからね(私たちだと逆で、なぬ何これ? じゃあ買わなきゃとなるのですが、まァ少数派でしょう)。
そんなデメリットにめげずに信念を貫いているからこそ、逆に長年お店を続けられるのではないでしょうか。昨年(2020年)11月にオープン10周年を迎えました。おめでとう!
fraupilz_vanillepac.jpgようやく日頃顔を合わせることのあるご近所さんが買いにきてくれるようになったとのこと。10年続けられるということは、リピートしても大丈夫なお店であることの証明となり、一度買った切り、その後顔を合わせるのが気まずくなるということを心配しなくていい、ということなのですね。
京都に限らず、住宅街に住みながらお店を開くのは難しいようです。フリのお客様を招きにくい上に、ご近所ならではの気遣いが妨げになる。そういった条件にさらにお客様に安易に迎合しない姿勢を貫いたのですから、見上げたものです。
やっぱり凄いなぁ、あゆみこちゃん(信頼のおける腕のいいシェフなのですが、ちゃんづけで呼ばせてもらっています。どうかお許しを)!

●『ケーゼ ザーネ トルテ』  辺7.3cm 高さ6.2cmほど。
frau_kase.jpg
せっかく独語表記もしてくれているので、こちらも頑張ってみましょう(なお、ウムラウトは表記できませんので悪しからず)。
Kase sahne torte 直訳するとチーズと生クリームのケーキという意味。つまり、レアチーズケーキです。
底から、シュクレ(ミュルベタイク、表面にチョコレート塗り)を土台に、マジパン入りのスポンジ(シャンティオンボーデンというものだとか)、クリームチーズ・カッテージチーズ・サワークリームとレモン果汁を合わせたクリーム(プルーン入り)、もう一度スポンジ、もう一度チーズのクリーム、シャンティを塗ったら、最後にスポンジ生地を被せて終了。底の周りにアーモンスライスをチラチラと、トルテの裾を飾っています。

いつも通りきれいな姿です。このお店でいつも思うのは、生トルテ(生ケーキ)の姿のきれいさ。清々しい印象なのです。ドイツ菓子専門店でこんなに素敵な生トルテ、めったに出会えるものじゃありません。これは本当に特筆ものなのですよ。それに10年ずっと変わっていなくて、嬉しいよぉ。
もちろん味も、どこか清らかな印象です。チーズのクリームがなんとも爽やか。軽い口当たり、ほのかな酸味、檸檬果汁も効いていますね。そこへ生クリームの滑らかさも加わり、スルスルとゆっくりと消えて行くのです。スポンジも軽く解けて一体化しますが、さすがにマジパン入りなのでコクを残して行く当たりが心憎いですね。時折、ミュルベタイクのサクッとした食感もいい合いの手。
あら、下のクリームのところに、ポツンとプルーンが忍ばせてあります。ほんの少し、ハッとする感じ。ほほぅ飽きさせません。

レアチーズケーキというと、ゼラチン多めのネットリとしたチーズオンリーの食感を思い浮かべがちですが、これは完全にクリームと生地の両方がクローズアップされる感じ。ふふっ、さすがドイツ菓子。
普段ベイクドタイプ一筋の私たちにも、ずいぶんと印象深い。うーん、いいねぇ。お見事!

●『スパニッシェ バニレ トルテ』  辺7.5cm 高さ5.2cmほど。
frau_spanische.jpg
Spanische vanille torte  スペインのヴァニラのケーキという意味。
これは最初の時に一度食べています。その時にも大誉めした記憶があります。だってそりゃあ美味しかったんだもん!
スパニッシェというのはチョコレートを使うお菓子の枕詞のようなもの。チョコはスペインから伝えられたということなのですね。前回も書きましたが、たしかチャイコフスキーの“胡桃割り人形”でもスペインからのお客様は、チョコレートの踊りだったかな。あー、頭の中で音楽が鳴り響く~♪ 音楽の賑やかさに比べるとトルテのほうは落ち着きがあります。

底生地は、前述と同様にチョコレートコーティングしたミュルベタイク(シュクレ)。その上に、チョコチップ入りのしっとりしたマジパン入りのスポンジ、バニラ風味のバタークリームの順に3度繰り返し、ん?トップとサイドは薄くマジパンだったかな?(このあたり未確認、前回と一緒だと思いなーんにも聞いていません)、最後にミルクチョコで覆っています。
カバーのミルクチョコをパキッと軽快に割って、いそいそと口へ運ぶと…… ミルクチョコの夢心地の甘さ、生地の豊かな美味しさ、マジパンのコク、バタークリームのなめらかさ、その総体がなんとも気品高く、うっとり。チョコチップに出会うと、わっ甘いっ! ショーカードに書いてあったように、しっかりスィートなケーキです。そう、チョコの苦み走る方向ではなく、これでもかと攻めないところが奥床しい。
一口ごとに懐かしさが沸いてくるような味わいです。マジパンの量が減ったような気がしましたが、かわりに軽やかさを手に入れたような気もします。
いずれにせよ、美味しさには変わりなし。うんうんお見事です。

●『エンガディナー ヌス トルテ』  辺8.3cm 高さ3.3cm 65gほど。
fraupilz_engadiner.jpg
Engadiner Nusstorte お馴染みスイスのエンガディン地方の伝統菓子。昔から良質の胡桃の産地として名高い地域です。
ローストした胡桃とほんの少しのオレンジピールをよく焦がしたカラメルに生クリームを加えたもの(蜂蜜も)で和えたフィリングを、ミュルベタイクで包んでいます。
ほろほろと崩れる優しい味わいの生地が大きな包容力を持っていて、カラメルクリームの力強い味わい、胡桃のかすかな渋みも含んだ奥行きの深い趣きをしっかり受け止めてくれます。このバランスが絶妙。素精糖を使っているせいか、甘味が柔らかいですね。
オレンジピールに当たった時の、一瞬、灯が点るような華やかさも嬉しい。大好きです。

●『バニレ キプフェル ピルツ フォーム』 茸全長3.2~5.6cm 全部で50gほど。
fraupilz_vanille.jpg
Vanille kipferl pilzform 大好物で、あれば迷わず購入とあいなるのですが、これは少し変形版。
でもちゃんと、ピルツフォームと断り付きですから良心的です。
まず形が三日月型ではなく、店名に合わせたキノコ型。そして粉にアーモンドプードルだけでなく、ヘーゼルのプードルも。ドイツで修業した時にも当然のように入れていたので踏襲しているそうです。
このお菓子はバターの配合が多く、儚いほどの食感が特長。型抜きクッキーにしているので、やや堅めになっているのではと心配しましたが、さくっ、ほろほろ~と心地よく崩れてくれました。
香りはヴァニラがメインではなく、アーモンド、ヘーゼル、ヴァニラ、粉を焼き込んだ香りが渾然一体となっています。
これはこれで一つの個性。いろいろな可能性があるものだなと、面白くいただきました。

fraupilz_teacoffee.jpg
あまりのご無沙汰にも関わらず、にこにこ元気いっぱいの笑顔で迎えてくれました。店内は“Frau Pilz きのこ婦人”という店名通り、きのこグッズが以前にもまして増えているような。あゆみこちゃんの不思議世界、思わずにまにましてしまう心地いい空間です。
小さいけれどカフェ(コロナ禍の影響で席数半減の3席)を併設してくれています。飲み物も洗練されています。
私は『ダージリンアールグレイ』(ロンネフェルト社/ドイツ)を選びましたが、香りが立ち上がってきます、ふうぅ~しばし黙想。
クボタが選んだ珈琲のオリジナルブレンドは、荒神口の「かもがわカフェ」さんにブレンドしてもらっているフラウピルツ特製。あゆみこさんが酸味のある珈琲が苦手なので、コクがありつつサッパリめに、酸味控えめ。ケーキよりも目立たないようにとの注文で合わせてもらったもの。スッキリとした軽い飲み口だそうです。しっかりコーディネートできていて、さすがですね。
中心部からすこし遠いですが、わざわざ目指して行ってほしいですね。きっと満足していただけるでしょう。

それにしても、帰路の時にいつも話題になるのは「あやつぅ、私たちに逆取材してきたぜ!」(じつは取材するのは得意だけどされるのは苦手の私たち)。そうです、彼女は好奇心旺盛なのか聞かれるだけじゃつまんないのか、毎回、こちらにいろいろ聞いてくる、強者なのです。油断大敵のあゆみこちゃん、健在なのでした。むむむ。

●『ケーゼザーネトルテ』430円 『スパニッシェバニレトルテ』440円 『エンガディナーヌストルテ』430円 『バニレキプフェルピルツフォーム』400円 『紅茶』470円 『ブレンド珈琲』470円(※外税)
●「konditorei und Cafe Frau Pilz フラウピルツ」
京都市左京区一乗寺樋ノ口町19-6  TEL075-712-7517  定休日/日月火  営業時間/11:00~18:00